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シンセサイザー鍵盤狂 漂流記 ~音楽を彩った電気鍵盤たちとシンセ名盤の数々~ その45

2021-08-19

Theme:sound&person

バンドの頂点は「いつ」なのか?は誰にも分らない…EW&Fの場合 VOL.2

アース・ウインド&ファイアーのVOL.2は「頂点を迎えたバンド」「盛りを過ぎたバンド」などバンドの旬についてがテーマです。バンドは継続することで成長し、やがて頂点をむかえます。バンドが続いている間、音楽を作るミュージシャン達はバンドの頂点が「いつ」なのかは分かりません。それが分かるのは過去のアルバムを振り返った時です。結果として「あの時」と分かるのです。この話はアスリートの頂点が「いつ」なのか、作家の頂点が「いつ」なのかと同等のものです。アスリートの場合は記録という絶対的な数字があるので分かり易いのですが、音楽の場合は評価者の趣味の問題があるので難しいところです。キング・クリムゾンやTOTOのようにファーストアルバムが頂点というバンドもありますが…(私見です)。
アース・ウインド&ファイアーの頂点は諸説ありますが、私の推しは「太陽神」です。「太陽神」は黒人によるファンク・ミュージックが極限にまで洗練され、楽曲、演奏、商業的成功も含め、アースの最高傑作だと思います。
一方、アース・ウインド&ファイアーの次作、「黙示録」も素晴らしアルバムです。しかし、このアルバムからアース・ウインド&ファイアーの歯車に微妙なズレが出てきます。その理由はアースという黒人バンドとしての血が薄まり、以前とは異なるバンドになってしまった事が挙げられると思います。

■ 推薦アルバム:EW&F『黙示録』(1979年)

1979年発表のアース・ウインド&ファイアー8作目のアルバム。デヴィッド・フォスターやジェイ・グレイドンといった「エアプレイ」人脈やスティーヴ・ルカサー、ジェフ・ポーカロの「TOTO」人脈を起用。79年『黙示録』というアルバムは黒人バンドから黒白混合バンドになりました。白人の血が入ることでアースの黒っぽさが希薄になり、音楽的にも洗練路線を突き進みます。洗練の極致とも云えるバラードやヒットチャートにも入るような耳触りのいいポップソングも生まれました。でもそれはアースの血ではなく、アレンジャーで鍵盤弾きのデビッド・フォスターや白人レコーディングメンバーの血だったのです。当時売れっ子だった白人側からアプローチした黒人音楽。結果、黒人のアイデンティティを何処かに葬ってしまった感が強く、アース・ウインド&ファイアー凋落の起点となった名盤にして迷盤。でも凄く、素敵なアルバムです。長岡秀星によるアートワークは前作を踏襲しています。

一方、このアルバムは録音が良く、山下達郎氏にとってのリファレンス盤になっていると自身の番組でコメントしています。

推薦曲:『イン・ザ・ストーン』

デイヴィッド・フォスター、モーリス・ホワイトの共作。分かり易く、洗練されたポップソングの様相が強い。シンコペーションを多用したデビッド・フォスターらしいブラスアンサンブルなど、いい意味でも悪い意味でも黒人色が薄められた楽曲になっている。

推薦曲:『アフター・ラブ・ハズ・ゴーン』

デヴィッド・フォスター(Key)とジェイ・グレイドン(G)のエアプレイユニットによるバラードの概念を打ち破った名バラード。バラードの地平を塗り替えたと云っていい程の素晴らしい楽曲。
イントロのアコースティック・ピアノと弦、ポルタメントがかかったシンセサイザーのアンサンブルが絶妙。Aメロに入り、アコースティック・ピアノのバッキングにフェンダー・ローズエレクトリック・ピアノをブレンドさせるデビッド・フォスターの王道バラードアレンジが冴えわたります。また、転調を交えた独特の浮遊感とゴージャズ感はデビッド・フォスターアレンジの真骨頂です。アコピとローズという2系統のピアノを使うアレンジはこの時からバラードの世界基準となりました。そしてこの手法は今も続いています。1980年にこの曲はグラミーを受賞しています。
また、80年リリースのデビッド・フォスターとジェイ・グレイドンのユニット、「エアプレイ」のアルバム「ロマンチック」では歌詞とアレンジを変えて、この曲が登場します。このアレンジも聴きものです!

■ 推薦アルバム:EW&F『天空の女神』(1981年)

『黙示録』の次作『フェイセス』ではアースの歯車のズレが大きくなり、セールスも振るわなかった為、これまでの人脈とは異なる作家陣を招集し、制作されたアルバム。
当時のモーリス・ホワイトが何を考えていたのかを知りたい気がします。ギタリストがアル・マッケイからローランド・バチェスタに代わり、アースのリズムカッテングの印象が少し変わってしまいました。
この後のアースの凋落ぶりは目を覆いたくなるほど。ホーンセクションを排し、制作したアルバムなど試行錯は見られるものの、もうあの頃のアースはどこかに行ってしまいました。
しかし、ライブアルバムでは圧倒的なパフォーマンスを誇っています。東京で録音されたルファーレのライブでは黒人ファンクバンド、アース・ウインド&ファイアーの高度な演奏を聴く事ができます。

推薦曲:『レッツ・グルーブ』

ヴォコーダーの響きが印象的。シングルカットされ、アースの大ヒット曲になった。シンセベースが全体のムードを作っていて、アナログシンセサイザーのミニモーグが大フューチャーされている。アナログシンセとしての理想的なベース音が聴ける。

今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲、使用鍵盤

  • アーティスト:アース・ウインド&ファイアー
  • アルバム:「黙示録」「天空の女神」
  • 曲名:「イン・ザ・ストーン」「アフター・ラブ・ハズ・ゴーン」「レッツ・グルーブ」
  • 使用機材:アコースティック・ピアノ、フェンダーローズエレクトリック・ピアノ、ミニモーグシンセサイザーなど

コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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shinsekenban

高校時代よりプログレシブロックの虜になり、大学入学と同時に軽音楽部に入部。キーボードを担当し、イエス、キャメル、四人囃子等のコピーバンドに参加。静岡の放送局に入社し、バンド活動を続ける。シンセサイザーの番組やニュース番組の音楽物、楽器リポート等を制作、また番組の音楽、選曲、SE ,ジングル制作等も担当。静岡県内のローランド、ヤマハ、鈴木楽器、河合楽器など楽器メーカーも取材多数。
富田勲、佐藤博、深町純、井上鑑、渡辺貞夫、マル・ウォルドロン、ゲイリー・バートン、小曽根真、本田俊之、渡辺香津美、村田陽一、上原ひろみ、デビッド・リンドレー、中村善郎、オルケスタ・デ・ラ・ルスなど(敬称略)、多くのミュージシャンを取材。
<好きな音楽>ジャズ、ボサノバ、フュージョン、プログレシブロック、Jポップ
<好きなミュージシャン>マイルス・デイビス、ビル・エバンス、ウェザーリポート、トム・ジョビン、ELP、ピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾン、佐藤博、村田陽一、中村善郎、松下誠、南佳孝等

 
 
 

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