
井上陽水:氷の世界
初めて「アルバム参加ミュージシャン」を気にしたのが、このアルバムでした。フォークといえば、ギター1本でストレートかつシンプルなイメージだったのですが、このアルバムは少し違いました。収録曲は時にハード、時には美しいメロディを紡ぎ出します。誰が演奏しているのだろう?とクレジットを眺めます。クレジットとは、どんなミュージシャンが参加して、どのスタジオで録音して、プロデューサーは誰々で…といった情報です。これらの情報は必ずと言っていいほどアルバムに表記されています。いつからクレジットというものが存在するようになったのでしょう?本来クレジットには「作品の信用」という側面があったそうです。これは映画の世界からやってきました。音楽と映画ではジャンルは違いますが、映画のエンドロールではスタッフのクレジットは必須となっています。
話を戻して、井上陽水『氷の世界』には、以下のメンバーがクレジットされています。
安田裕美(ギターリスト)デビュー当時より、井上揚水を音楽面でサポートする。
高中正義(ベーシスト)アルバムではギターを弾いていない。サディスティック・ミカ・バンドを経て、後にフュージョン界を牽引するギターリスト。
細野晴臣(ベーシスト)後にYMOを結成するリーダー。
深町純(キーボーディスト)日本を代表する作曲家であり、後にフュージョン界で活躍するキーボーディスト。
松岡直也(キーボーディスト)ラテンフュージョンミュージシャンであり、日本を代表するピアニスト。
林立夫(ドラマー)セッション・ドラマーとして数多くの作品でドラムを担当。
村上修一(PONTA秀一)(ドラマー)説明不要のあらゆるジャンルをこなすセッション・ドラマー。
ピーター・ロビンソン(キーボーディスト)クォーターマスのメンバー。後にフィル・コリンズ・バンドのメンバーとなる。
ジョン・ガスタフソン(ベーシスト)ロキシー・ミュージックのベーシスト。
レイ・フェンウィック(ギターリスト)後にイアン・ギラン・バンドで活躍するセッション・ギタリスト。
見砂和照(ドラマー)セッション・ドラマー。現在、父親の意志を引き継ぎ、東京キューバン・ボーイズを率いる。
星勝(アレンジャー)元モップスのメンバー、ギターリスト。
ニック・ハリソン(アレンジャー)ローリング・ストーンズの「悲しみのアンジー」のストリング・アレンジを担当。
この他、RCサクセションの忌野清志郎、小椋佳らも参加している。
錚々たるメンバーです。このアルバムは、40年近く前のアルバムということを考えると、すべてが当時有名ミュージシャンだったわけではなく、後に有名になったミュージシャンも参加しています。それでも、夢のような組み合わせで録音が行なわれた事実にわくわくしてしまいます。

海外では、スタジオ・ミュージシャンが集まってバンドを結成するという流れも生まれました。クルセイダーズ、レイディオ、アトランタ・リズム・セクション、シック、MFSB、TOTO、スタッフ、エアプレイ、ブレッド、バーケイズ、ジャーニー、フォープレイがその一例です。日本でもSHOGUNがスタジオ・ミュージシャンを中心に結成され、ドラマの主題歌でブレイクしました。クレジットを見れば、後にバンド結成に至る流れが発見できたりして、音楽の楽しみ方が広がります。
また、「あのスティーヴ・ガッドがSMAPのアルバムに~~!」といった発見も。クレジットで誰?この人?が気になったら、その先には楽しい発見が待っていることでしょう。ぜひ、お試しあれ。