最近える氏のフレットレス自作記事にて登場しました。Cheenaです。
※参照→【やってみた】ベースのフレットレス加工
私の記事も、える氏のものも、フレットレス加工の手引きとして少々有名なようで、喜ばしいかぎりです。フレット抜きやピエゾピックアップの設置など、同じような加工に挑戦する人の間で紹介されています。
そこで今回は、フレットレス加工、特に指板と溝埋め材の話をしていきます。
まずは指板のフィニッシュについて、いくつかの伝統的な工法と、挑戦的な手法を紹介してみましょう。
【選択肢①:無塗装】
YAMAHA ( ヤマハ ) / SLB300 サイレントベース
フレットを抜き、突板やパテを埋めて削ったのちに何も塗装しないというのは、エレキベースでは挑戦的に見えますが、バイオリン属弦楽器でも同じく行われてきた手法です。「同じく」と言っても向こうはもとより溝もなく交換も可能なエボニー指板、こちらは打って抜いて埋めて削ってと加工を多くされた固定式のローズ/メイプルなどの指板ではありますが、少なくともフラットワウンドやプレーン弦を使い、なおかつスラップやバルトーク・ピッチカートをしなければ指板に深い傷が入ることはないでしょう。ラウンドワウンドを使用すると押弦やチョーキングにより指板に跡が付く可能性が高いです。無塗装のみの特徴としては、オイルや蜜蝋などを使用する量により材の柔らかさが変わり、音質が変化することが挙げられるでしょうか。また、吸湿と乾燥も行うためネックが反ります。仕上がりは材によりマット~半艶。
【選択肢②:エポキシ塗装】
FENDER ( フェンダー ) / Jaco Pastorius Jazz Bass FL 3color Sunburst
フレットレスといえばJaco Pastorius。彼のサウンドはエポキシ樹脂の硬質な被膜とラウンドワウンドによるはっきりしたサウンドに支えられています。分厚い塗装が形成できるため、ネックの状態が悪くともある程度無理やりに修正することが可能なこのフィニッシュですが、24時間の間埃が落ちずに放置できる水平台の上で塗装し、非常に硬い塗膜を削ることになるため大変です。挑戦的な手法として、紫外線硬化レジンを使うという手段もあるのですが、いかんせん前例がなく、また木材に沁み込んだ部分は硬化しないため強度がなく、漏れ出した場合はアレルギーの可能性があり...と幾つかの部分において現実的ではありません。もし行う場合は、先に木材の方に沁みないように下処理を行い、上掛けして固めるという方式になります。ただし、2液性レジンよりUVレジンの方がカラーバリエーションが多いことや低価格であること、比較的粘性が低いなどのアドバンテージがあるため、意匠に富んだ指板を作りやすいという利点もあります。ちなみにエポキシ樹脂は化学的に安定であり、指板潤滑剤を大量に使用しても問題ないというその他の楽器では考えられないような利点を持ちます。研磨工程があるため仕上がりは艶。
【選択肢③:スプレーラッカー塗装】
ローズ指板にPLA樹脂を入れ、ラッカー塗装している。塗装は剥がれ、ラウンドワウンドの溝が入っている独特な風合い。写真では剥がれた部分を見やすくするため弦を指板端方向に広げて撮影している。
前述のエポキシよりは無塗装に近い音と手触りながら湿気止めなどの程度塗膜の利点は得られ、しかし全くと言っていいほど行われないのがこの手法。指板に直接アクリルラッカーなどを吹き付け保護膜を形成しますが、ラッカー塗装の例に漏れず極薄です。 もちろん塗膜の強度はほぼないため、弦に沿って塗装剥がれが発生するというレリックメイプル指板に近い風貌になります。吸湿を止められるためネックが反りづらいのも利点のひとつ。塗料の種類によりマット~艶各種。
【選択肢④:オイル系・漆系塗料】
フレットレスと同様のフィニッシュを施したフレッテッド指板。ローズ指板を塗装し、さらにワックスを掛けることで硬質な被膜を形成。
ラッカーと同様に、塗膜は薄いながら木部に浸透するためある程度の防御力があるフィニッシュがこちら。塗装形成の難易度は最も低く、比較的自由な着色が可能で、初めて行うフレットレス加工には(元の指板に問題がなければ)無塗装と並ぶ簡便な選択肢となります。ただ、使用する製品によって耐久性が大きく変わるのは難点。工業用漆や木工用ワックスニスでは非常に硬い塗膜を形成できますが、荏油やアマニ油などの普通のオイルフィニッシュでは耐久性はほぼ期待できません。塗料の種類によりマット~艶。
塗装(あるいは無塗装)の選択肢はこの4つがおすすめでしょうか。
これらの比較に関してはエポキシ以外は自作して試して見るのがいいと思いますが、イメージする「フレットレスの音」がどのフィニッシュの音なのかは留意する必要があります。
【溝埋め材について】
フレットレスベースを自作するにあたり、フレットを抜くとネックが反る、ねじれるなどと言われることは多いですが、素材の選定をちゃんとすれば大丈夫です。だいたいにおいてねじれるネック、波打つネックはパテで溝埋めをしていることが多いイメージがあります。また、パテを使用している場合の切実な問題として"幾ら気を使っても溝の中に気泡が入る可能性がある"というものがあり、その場合は十分な強度が得られず、再充填も難しいためその溝を一度切り直して再度パテ埋め&研磨という非常に時間のかかる処理をすることになります。
そこで私は多少面倒でも十分に強度のある材とタイトボンドの組み合わせを採用することを勧めています。基本的には好みに従う配色で問題ないですが、インレイとの釣りあいを考えて決定するといいでしょう。引っこ抜くかドリルで砕くかして指板と同色の材で埋め直してもいいです。特殊な材を採用したい場合としては、テックウッドなどのエンジニアウッドを採用した指板をフレットレス加工する場合です。これらに関してはそれぞれの材の特性を把握して調整する必要がありますが、薄板を大量に接着したテックウッドは吸湿性が非常に高かったり、異様に柔らかかったりということが時折あります。ゆえに、アルミ板などによる溝埋めを行うことがネック保護につながります。
※フレットのクラウンを完全にそぎ落とし、タングだけ残す形でのフレットレス成形は絶対にしてはいけません。
逆にフェノウッド、リッチライトなどの樹脂を用いて成形した材は元から塗装されているのに近い状態であり、比較的自由に材を選んでプラ板なども使用することができます。ただし、樹脂の常として薬品に弱いなどの部分があり、特にフェノールはアルカリに、アクリルはアルコールに弱いのには留意する必要があります。
フレットレス加工をする時はちゃんとした工具を使いましょう。これだけはどんな工程であっても言えます。
それではまた。
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