ピンク・フロイド「炎~あなたがここにいてほしい~」リリース50周年!!
某雑誌でピンク・フロイドの記事が目に留まりました。 紹介されたレコードジャケットから、すぐに『狂気』の次にリリースされた『炎』であることが分かりました。 『炎』の実際のタイトル(原題)は『Wish You Were Here』。直訳すれば「あなたがここにいてほしい」ということになります。これはピンク・フロイドの初期メンバーであるシド・バレットのことをテーマにしているアルバムです。 アルバムタイトルをこのように表記するということは、メンバーのシド・バレットへの想いの強さがうかがわれます。
ピンク・フロイドは世紀の大傑作である『狂気』を1973年にリリース。ビルボード741週連続してチャートインする前人未到の大ヒットを記録します。 2年後、1975年にリリースされたアルバム『炎』は前作『狂気』の次のアルバムです。 メンバーがそのプレッシャーに苛まれ、苦労の末に絞り出されたアルバムとして知られています。
実際のオリジナルタイトルは『炎』ではなく『あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)』でした。オリジナルタイトル(直訳)は日本国内ではメインに使われることなく、サブタイトルでの表記になりました。 ではどうしてメインのテーマがアルバムタイトルとして使われなかったのか? は予測が付きます。『あなたがここにいてほしい』と言われても、何のことなのかが分からないからです。 なぜ『炎』になったのかは、ピンク・フロイドのアートワークを手掛けていたデザイン集団「ヒプノシス」のアルバムジャケットによるところが大きいと推測されます。
『炎~あなたがここにいてほしい』(1975年)のアルバムジャケット

『炎~あなたがここにいてほしい』のリリースは1975年。 当時、高校生だった私が記憶しているのは、ネイビーのビニールに包まれたレコードが棚に並べられていたことです。 中身が全く見えないネイビーのビニールで包装されたジャケットの左上に、「炎」という文字が書かれた10センチ四方のステッカーが貼られていました。 ネイビーのビニールを破いて中から出てくるのが、このレコードジャケットです。 男性同士が握手をしている写真ですが、右側の男性から炎が上がっていて、写真を覆う白い枠の右上部が焦げています。 こういった摩訶不思議なアートワークは「ヒプノシス」の得意とするところで、このジャケットからレコード会社が『炎』とタイトルを付けたのだと思われます。 レコード会社の、中身を明かさない思い切ったプロモーション展開に、ピンク・フロイドというバンドの得体のしれない何かを感じました。
ちなみに以下のパッケージはピンク・フロイド、デビュー50周年の『炎~あなたがここにいてほしい』のアルバム仕様です。 50年前のリリース当時のアルバム仕様は、「炎」のタイトルステッカーのみが貼られたネイビービニールの包装だけ。中央部にあるPINK FLOYDのイラストステッカーはありませんでした。

■ 推薦アルバム:ピンク・フロイド 『炎~あなたがここにいてほしい~50周年記念盤』(2025年)

ネイビーのビニールに包まれた仕様のパッケージから50年が経過し、ネイビーのビニールは随分と傷がついたエイジング仕様になっている。 更にアルバム『狂気』のプリズムステッカーのイラストや、中におまけとして入っていたピラミッドが描かれたカードのステッカー、バックステージ・パスなども貼られたデザインになっている。 このアルバムは『狂気』ではないはずだと誰もが思うところだが、この50周年の『炎』には『狂気』の楽曲も入っているのだ。 『スピーク・トゥ・ミー』、『オン・ザ・ラン』、『タイム』、『マネー』、『ザ・グレート・ギグ・イン・ザ・スカイ』など、重要曲のライブテイクが収められている。 ラインナップとしては盆と正月が一緒に来たかのようなサービスぶりで、これが果たして『炎』の50周年記念盤かと首をひねってしまうが、ファンにとっては興味深いトラックも多く収められている。
推薦曲:「狂ったダイヤモンド」(アーリー・インストゥルメンタル・ヴァージョン、ラフミックス)
オリジナルトラックを聴いている人なら、興味をそそられるはずだ。かなりラフなミックスで、デヴィッド・ギルモアのギタートラックのミックスがいささか小さすぎる。ストラトキャスターの音はほぼオリジナル通りだ。逆にハモンドオルガンを演奏するリック・ライトの音がよく聴こえるため、どこでレスリーを回しているかや、どんな音で演奏しているのかがよく分かる。ハモンドオルガンの音はとても良い音だ。 そしてこのトラックを聴くと、まだ完成途中であるこの楽曲が見えてくるし、楽曲がどんなプロセスを経てブラッシュアップされたかも、ある程度理解できる。
このトラックには『狂ったダイヤモンド』冒頭5分ほどの、デヴィッド・ギルモアの単独ギターソロパートが入っていない。 冒頭のギターパートは、バックにベースやドラムは入っていない。オルガンなどの重厚な白玉(ロングトーン)の上をギターのみでメロディーを歌うため、それなりにメロディーが構築されていないと楽曲を弱くしてしまう。冒頭にあるギルモアの聴かせどころは、まだできていなかったようだ。 ギターソロ展開部の印象的なメロディー部分もまだ決まっていなかったらしく、オリジナルテイクに近いが違うメロディーラインを弾いている。 どこまでがアドリブで、どこまでが想定ラインなのかもうっすらと見えてくる。 ギタリストのデヴィッド・ギルモアは、特にテクニカルなギタリストではなく、印象的なメロディーをどう歌うかに傾注するタイプのギタリストではないかと思う。 事実、ピンク・フロイドの楽曲を聴くと、ギターソロはかなり考えられていると以前から思っていた。それがこの『狂ったダイヤモンド』のギターソロを聴いて確信できた。そんなデヴィッド・ギルモアの試行錯誤に思いを馳せるのも面白い。
ギターに寄り添うシンセサイザーのオブリガートも入っていないし、コード進行や構成も決まっていない箇所がある。このラフミックスからオリジナルに発展していったのだろう。 また『狂ったダイヤモンド』の終盤でテーマを歌うリック・ライトが奏でるシンセサイザーの音も、オリジナルと比較すると細く、弱い。これがあのミニモーグかと疑ってしまうほどだ。 『炎~あなたがここにいてほしい~』50周年記念アルバムを聴き、アウトテイクからピンク・フロイドというバンドの創造過程を垣間見ることができた。これだけ出してしまって75周年にはどんなネタが出てくるのだろう(笑)。 前述の『狂気』のライブトラックにも興味をそそるネタがあったので、次のパートで紹介したい。
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:ピンク・フロイド、デヴィッド・ギルモア、リック・ライト
- アルバム:『炎~あなたがここにいてほしい~』
- 推薦曲:「狂ったダイヤモンド」
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