「The Chicken」いろいろ…
前回はジャズファンやロックファン、バンドをやっている方々に広く知られる楽曲『The Chicken』を取り上げました。 『The Chicken』はジェームス・ブラウン・バンドから始まり、ジャコ・パストリアスがその可能性を拡大させ、プロだけではなくアマチュアも演奏する楽曲として認知されています。 音楽の好き嫌いの要素は様々ですが、シンプルに「カッコイイ」というのは永久不滅の法則で、それがピタリとはまっているのが『The Chicken』です。 『The Chicken』はシンプルなB♭のブルース進行をベースとする、シンコペティックなファンク・ブルースです。
「The Chicken」の構成
「The Chicken」は4小節のベースソロ・フレーズがあり、その後は
| Bb7 | Bb7 | Bb7 | Bb7 |
| Eb7 | Eb7 | D7 | G7 |
| C7 | C7 | C7 |キメB♭7|
| Bb7 Eb7 | Bb7 Eb7 | Bb7 Eb7 | Bb7 Eb7 |
というシンプルなコード進行で構成されています。
その中に複数の強力なリフやフレーズが組み合わさり、成り立っています。 1つ1つのリフ、フレーズが完璧です。第一にジャコ・パストリアスが生み出したベースのフレーズ。第二に冒頭のブラス的メロディーパート、それに繋がる第三の印象的なメロディーパート、第四にC7のパート+キメのリフという構成です。そんなシンプルな構成の中に音楽の「カッコヨサ」が凝縮されている稀有な楽曲です。覚えやすく歌いやすいというポップソングの要素も内包しています。
「The Chicken」の難しさ
『The Chicken』は我々のバンドでも演奏している楽曲です。シンプルなコードや比較的短い構成で簡単そうに聞こえます。しかし意外と難しいのがこの楽曲。 上手くリズムに乗れなかったり、アドリブではメロディーを作り出すのが難しかったりします。 私はいつもD7とG7の部分をどう歌うのかに悩んでしまいます。 私の場合はB♭7とE♭7部分はそれぞれリディアン7thかミクソリディアンスケールを弾いています。D7とG7部分はオルタードスケールを使いますが、スケール的にもピッタリとはめ込むアプローチが思うようにいきません。
前回紹介したジャコ・パストリアスのライブ盤ではボブ・ミンツァーがソロを吹いていますが、一体どういうスケールを吹いているのかは全くもって謎です(笑)。フレーズ的には特にメロディーを意識しているとも思えません。どういったアプローチなのかを聴いてみたいです。どなたか適切なアドバイスがあれば是非、お願いしたいです。
さて今回は様々な魅力溢れる『The Chicken』を、異なるアプローチで演奏しているアーティストやバンドを取り上げたいと考えています。
■ 推薦アルバム:村田陽一ソリッド・ブラス&ビッグ・バンド フィーチャリング ランディ・ブレッカー 『Tribute To The Brecker Brothers』(2008年)

日本を代表するアレンジャー、作曲家である村田陽一率いる、村田陽一ソリッド・ブラスが2007年1月に他界したサックス・プレイヤー、マイケル・ブレッカーをトリビュートした2008年の傑作ライブアルバム。 マイケル・ブレッカーの兄であるトランペット奏者、ランディ・ブレッカーをゲストに迎えている。 ランディ・ブレッカーはトランペットにシンセサイザー・デバイスを使用し、通常のトランペットとは違う音を出している。こういったランディ・ブレッカーの音楽への取り組みが先進的なブレッカー・ブラザーズ・サウンドを生み出した素(もと)になっているのだろうし、現在もファーストコール・ミュージシャンであり続ける理由なのかもしれない。 村田陽一ソリッド・ブラスを率いる村田陽一(tb)もランディ・ブレッカーに負けず劣らずの熱気溢れる演奏を披露している。 取り上げている楽曲もジャコ・パストリアスの『The Chicken』をはじめ、『ドナ・リー』や『スリー・ヴューズ・オブ・ア・シークレット』、ブレッカー・ブラザーズの『サム・スカンク・ファンク』『スポンジ』など、ファン垂涎のラインナップだ。
推薦曲:「The Chicken」
『The Chicken』はジャコ・パストリアスのベースラインから始まるが…村田陽一率いる村田陽一ソリッド・ブラスにはウッドベース、エレクトリックベースを弾くベースプレイヤーが存在しない。ベースラインはチューバが担当しているというのが面白い。 この村田陽一ソリッド・ブラスの演奏は、先日観た村田陽一ビッグ・バンドの端正な『The Chicken』とは異なり、17年前というだけあって若さ溢れる演奏に終始している。
ここでのランディ・ブレッカーのトランペットの演奏は、トランペットとスティール・パンの中間的な音色でアドリブを展開している。途中からはトランペットの音色に寄せた要素が強くなる。 以前、ランディ・ブレッカーへのインタビューで「演奏するときには何を考えているのか」的な問いに対し、「演奏時には技術的なこと以外、何も考えていない」という答えを読んだ。私はホーンプレイヤーではないから分からないが、トランペットというのはそういう楽器なのかと変に納得した記憶がある。 また村田陽一のトロンボーンソロでは、2回し目の最後のキメの音とその後のソロの頭の音は同じB♭の音だった。 村田さんとは取材でご一緒したことが何度かあったが、「アドリブの一発目に出す音でそのプレイヤーのセンスが分かる」という話を聞いたことを思い出した。
■ 推薦アルバム:デイブ・ウエックル・バンド 『LIVE & Very Plugged In』(2003年)

2003年のデイヴ・ウェックル・バンドの傑作ライブアルバム。メンバーはドラマーのデイヴ・ウェックル、キーボードのスティーヴ・ワインガート、サックスのゲイリー・ミーク、ベースのトム・ケネディの4人。デイヴ・ウェックルはチック・コリア・エレクトリック・バンドの超テクニシャンとして知られる初期メンバー。他のメンバーもアルバムの音を聴けば半端ないテクニシャン揃いであることが分かる。 特にベーシストのトム・ケネディの速弾きは超高速。デイヴ・ウェックルは勿論であるが、トム・ケネディのベースの存在感が圧倒的だ。ここまでのベースを弾く必要があるのかと思うほどの音数であり、そんな高速フレーズの中に独特のグルーヴが息づいている。
推薦曲:「The Chicken」
ジェームス・ブラウン・バンドの『The Chicken』はドラムのフィルインからスタートする。それをオマージュしたかどうかは分からないが、イントロは強力なデイヴ・ウェックルのドラムソロ。それを受けてのジャコのソロを更に捻り上げた凄まじいベースラインから幕を開ける。ジャコのライブ盤はピーター・アースキンとのグルーヴが印象的だが、このデイヴ・ウェックル・バンドの『The Chicken』は全く別の世界が展開する。 ドラムとベースのグルーヴも言わずもがなだが、キーボードを担当するスティーヴ・ワインガートがまた凄い。ちょっとした隙間に入れるフィルインも強力だ。 大概のミュージシャンのシンセサイザーソロはアナログシンセを使用する場合が多い。その理由はアナログシンセの音の方がデジタルシンセに比べ太く、存在感があるからだ。しかしデイヴ・ウェックル・バンドのライブ映像を見ると、スティーヴ・ワインガートはYAMAHAのMOTIFを使っているようだ。 ジョージ・デュークがシンクラヴィアで出していた音を更に太くしたような音を出している。MIDIでアナログ音源をスレーブさせている可能性もあるが、デジタルシンセではこれまでに聴いたことのない音だ。この音を使ってのアドリブが凄まじい。シンセサイザーファンは必聴だ!
今回取り上げたミュージシャン、アルバム、推薦曲
- アーティスト:村田陽一ソリッド・ブラス、デイヴ・ウェックル、トム・ケネディ、スティーヴ・ワインガート など
- アルバム:『Tribute To The Brecker Brothers』、『LIVE & Very Plugged In』
- 推薦曲:「The Chicken」
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