
フィル・コリンズやピーター・ガブリエルが在籍していたイギリスの偉大なロック・バンドGENESIS(ジェネシス)。数々の名曲や、伝説の名演を完膚なきまでに再現する事で人気を博してきたモンスター級のトリビュートバンド、その名も復刻創世記。
トリビュートバンドというと、いかにそのグループ、アーティストの音楽やパフォーマンスを忠実に再現できるかが、ポイントになると思います。復刻創世記のワンマンライブは、ジェネシスというグループを70年代のイギリスにおけるエンターテインメント文化として、実に多角的にとらえていて、楽しさと驚きに溢れたステージでした。
絶え間なく繰り返されるボーカリストの衣装替え(それぞれの曲で、当時フィルが着ていた衣装に合わせている)、演奏された曲やアルバムのエピソードなどがユーモラスに紹介されていくトーク。ジェネシスを知らない人でも充分に楽しめるエンターテインメント性は、他のトリビュートバンドではなかなか味わえない魅力でした。
当時のUKロックシーンが持つ空気感を全身で味わえる程のサウンド・メイキング、さらにはブリティッシュ・ロックへの憧憬を、会場内のオーディエンスが一体となって共有できる貴重な時間を過ごした夜でした。
本家ジェネシスのメンバーにも認知されるまでに至った、結成23年目の道程が凝縮されたかのようなライブパフォーマンスの模様をほんの少しお伝えいたします。

会場の吉祥寺Silver Elephantに入ると、入り口付近までぎっしりの超満員。チケットは即ソールドアウトだったとの事です。メンバーがデザインしたTシャツやトートバッグなどのグッズは、開演終了時には売り切れていました。また、早くから入場していたファンのために無料で配布された読み物も、特製のファイルが付属し、所有欲が強いUKロックファンの心をどこまでも掴むような拘りに早くも驚かされます。
会場が暗転すると、昭和時代のコンサートを思い出させる「本日はようこそ、復刻創世記の公演へいらっしゃいました」などの、女性アナウンスが流れました。そして「開演中の携帯電話のご使用は、公演の隠し撮りをされる方の妨げになるため、ご遠慮ください」といった内容に場内は笑いと拍手の嵐。会場中が爆笑の中、伝説のバンド、復刻創世記がステージに登場。アルバム「Duke」からの組曲が始まります。
フィル・コリンズ役とチェスター・トンプソン役を演じる二人による力強いツイン・ドラムが轟くインストパートに早くも圧倒されたのも束の間、アロハシャツ姿のフィル役がステージ中央に移動し、パワー溢れるボーカルを聴かせます。このアロハシャツ姿というのは、アルバム「Duke」の時にフィルが着ていた衣装なんだとか。こうやって聴いていると、この時期のジェネシスの音楽は、プログレといっても、パイロットなどのUKモダン・ポップにも通じるキャッチーなサウンドとメロディーが印象的です。時間を忘れるくらい、親しみやすい曲がジェネシスにはたくさんある事を思い出させてくれます。
オープニング曲を終えると、アルバム「Duke」に関してのエピソードが実に面白おかしく紹介されていきます。ジャケットの絵は、フランスの画家によるものという情報は私も初耳でした。さらには画家による貴重な絵本作品の実物をステージ上で見せてくれる演出に、なかなか携帯のシャッター音が鳴り止みません。

前半のハイライトのひとつとして、実に面白かったのが、トニー・バンクス役のキーボード奏者による、実際に使用しているビンテージ・シンセサイザーの紹介でした。
オープニング曲で体感したサウンドの密度は、このビンテージ・シンセサイザーやエレクトリックピアノによるものだった事に気づきます。1970年代製のYAMAHA CP-70やProphet-10をはじめ、眩いばかりの貴重な名器が、ジェネシスのどの曲で使用されたかなどのエピソードとともに、次々と演奏付きで紹介されます。こんなすごい名機の数々を揃えてしまう財力と熱量には、ただただ感服せざるを得ません。また、ユーモラスなトークを交えての紹介が実に好印象。楽器をやらない人でも楽しめるような、演出味溢れる機材紹介も、復刻創世記のライブの大事なコンセプトのひとつなのでしょう。どおりで女性客も多いわけです。

因みに、このトニー・バンクス役のキーボード奏者の方は、シンコーミュージックから発売されているムック本「見てたのしむアナログ・シンセ図鑑」で紹介されている50機のうち18機をも、写真用に提供しているとか。そうなってくると、ここからの演奏がますます楽しみになってきます。
休憩を挟んで後半になると、復刻創世記の本領発揮の時間帯ともいうべき、ジェネシスの70年代の名曲や代表曲が惜しげもなくプレイされます。どのパートも見どころが満載なプレイは圧巻でした。全身に襲い掛かる70年代シンセサウンド、曲によってスネアを変えていくというチェスター・トンプソン役が放つ巧みでグルーヴィーなドラムサウンド。ギター&ベースのダブルネックでバンドを支えるマイク・ラザフォード役。前半はダリル・スチューマーに扮し、途中からスティーブ・ハケット役に変身して、シンセサウンドとともに復刻創世記を彩るギタリスト。ドラムを叩いたり、歌ったりでライブを劇的に盛り上げていくフィル・コリンズ役。視覚的に広がりを演出する照明とバンドのコラボレーション。サリー州の田園風景すら目に浮かびそうな程、純度の高い再現度は、決して技術や高額な機材だけで生み出せるものではないと思わせます。

あっという間に時間は過ぎ、最後に披露されたのは、オールスタンディング&大合唱で楽しんだ「The Lamb Lies Down On Broadway」でライブは終了。
ここまで、盛り上がるカバー・バンドというものを見たことがありません。そんな熱量を持ったバンドだからこそ、生まれる光景なのでしょう。
今回のライブでひときわ印象に残ったのは、トニー・バンクス本人が使用していたものと同じアナログ・シンセサイザーの数々。いつか弾いてみたいですが、世界に何台とない代物なので、流石に全く同じものを入手する事は難しそうです。
しかし、現行品として販売されています!
Sequential(Dave Smith Instruments) (シーケンシャル) / Prophet 6
1978年に発売された、伝説のシンセサイザー Sequential Circuits 「Prophet-5」 の思想を受け継ぐ、6ボイス・アナログ・ポリフォニック・シンセサイザー。アナログ・シンセならではの温かみのあるスペーシー・サウンド、神秘的な響きが得られます。いつか私も、この逸品を手に入れて、UKロックファンの心に轟かせてみたいものです。
復刻創世記、2019年2月は大阪にて、ディープな再演ライブが楽しめるとの事です。エマーソン・レイク&パーマーのトリビュートバンドも登場するというゴージャスな内容になるようです。場所は大阪だけに、EL&Pのトリビュートの時は、伝説の甲子園球場オーディエンス乱入ライブ再演となるか!などと勝手な想像をしながら会場を後にし、吉祥寺の夜は煌びやかに更けていくのでした。
復刻創世記-ALBERT SHOW
吉祥寺Silver Elephant 2018年10月28日
第一部
Behind The Lines
Duchess
Guide Vocal
Turn It On Again
Duke's Travels
Duke's End
One For The Vine
Robbery, Assault & Battery
Ripples
・
第二部
...In That Quiet Earth
Afterglow
Firth Of Fifth
Supper's Ready
Drum Duet
Los Endos
・
アンコール1
Watcher Of The Skies
The Return Of The Giant Hogweed
アンコール2
The Lamb Lies Down On Broadway
~The Musical Box [Closing Section]
◆Yasuo Nakajima
as Phil Collins
◆Takumi Gen-naka
as Chester Thompson
◆Yoshiaki Iwasaki
as Tony Banks
◆Atsushi Matsuda
as Steve Hackett
◆Toshiaki Sudoh
as Mike Rutherford
ライブはじめ復刻創世記の情報は、バンドのWEBサイトへ
http://www.genesis-tribute.com/