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スッタモンダ・ハーモニカン話

2021-11-30

Theme:sound&person

皆さんは故・妹尾隆一郎氏を御存知だろうか。日本のブルースハープの草分け的存在であり、我が師と仰ぐ人物である。

いや、師とは言っても私は実際にお会いしたことはない。その昔、某音楽雑誌で連載されていたブルースハープ講座を読んで勝手に師と仰いでいるだけだ。そう言うと御本人はあの世でズッコけ、本当のお弟子さん達は怒り出すかもしれない。先に謝っておこう、ごめんなさい。

数年前、その妹尾隆一郎先生の訃報をきっかけに何十年かのブランクを経て再び吹き始めたハーモニカだが、今やどっぷりハマってしまい、ブルースハープだけでなくクロマチックハーモニカにも手を出す始末。所持する本数も増える一方だ。まあ、何十本あろうが他の楽器のように場所を取らないから良いのだが。

ブルースハープを吹き始めた十代の頃は、セサミストリートのテーマ曲を完璧に吹けるようになった『つもり』でいたが、今になってあれは巨匠トゥーツ・シールマンスの演奏だったと知り、当時の自分の無知と感性の無さと耳の悪さに呆れることしきり。人間、自身の感性よりも上にある事象に関しては良し悪しの判別ができないもんだね。

そんなこんなで、ハーモニカのまったりとした魅力をこの世知辛い世の中に幅広くお伝えしたいと思い立ち、本稿をしたためてみた。ちなみに、タイトルに漢字を当てると「吸ったもんだハーモニ閑話」である。はい、ダジャレです。すみません。

さて、御存知の通りブルースハープというのはホーナー社の登録商標である。一般名としてはその穴の数から10ホールハーモニカと言ったり、クロマチックに対してダイアトニックハーモニカと言ったり、音の配列を決めたジョセフ・リヒターに因んでリヒターハーモニカと言ったりするが、世間一般に通りの良いブルースハープという呼称を本稿でも有難く使用させて頂く。

(注:クロマチックとは半音階のこと。ダイアトニックとは全音階―例えばピアノの白鍵だけの音階のこと。)

そのブルースハープの最も偉いところは、長さが10cmほどしかなく、穴が10個しかないのになんと3オクターブの音域が出せる仕組みだ。 1穴につき吹き吸いで2つの音階が出るから、10穴では20音・・・
あれれ? 3オクターブだと7+7+7+1=22音必要じゃね? ならば、20音に収めるために3音抜かして・・・
およよ? 22-3=19音だよ? どゆこと?

いきなり高度な数式を出してしまって申し訳なかったが、低音部のソだけは吹いても吸っても出るようになっているため、19+(吸ソ)=20音というわけだ。

(図1)

通常、ドミソは吹く音、レファラシは吸う音に決まっているが、低音のソを吸っても出せることにより、ソシレファの和音が出せるようになる。すなわち、ガバッと大きく咥えて吹き吸いすれば、トニックとドミナント7thを交互に鳴らせるのだ。これを考えたジョセフ・リヒターさん、あんたは偉い!

ところで、さっき抜かした3音は結局出せないのか?と心配な方がいらっしゃるかもしれないが、安心なされ。かの有名な「ベンド」という技を使えば、それらの音を出すことが可能となる。

ベンドとは、強く吸う(ドローベンド)、あるいは強く吹く(ブローベンド)ことにより、穴の中の圧力を大きく変化させて音をぐいっと下げる奏法だ。ただしそれには条件があって、その穴で吹き吸いする高い方の音を、低い方の音に近づくようにしか下げることができない。そうだとしても抜けた3音を補うならそれで充分。

低音部のファは2番ソから、ラは3番シから下げられ、高音部のシは10番ドから下げられるので、これで3オクターブ全てのダイアトニック音階をカバーできてしまう。やはりリヒターさんは偉かった!

(図2)

まさかとは思うが、今ブルースハープを吹いている人でベンドができないって人はいないよね? ね?
一応、念のためにコツを書きましょう。まず目標を1つの穴に絞ること。3番あたりが良いかな。そこに集中してキューッと強く吸う。ざる蕎麦を一本だけツーッと吸いこむ感じ、または凍ったスムージーをストローで吸いこむ感じが近いかもしれない。コツをつかめば簡単に音が下がるはずだ。それでも上手くできない人は、そもそも普通に吹いている時の口の中が狭いのではないだろうか。普段から口の中にウズラの卵くらいの空間を作って演奏するようにすると、ベンドが楽になるだけでなく響きも良くなるのでお試しあれ。

えっ? もっとノンダイアトニックの音も出したい? ていうかミとソとシのフラットが出せなきゃブルースできなくね? ブルースハープなのにブルースできないって何?

おっしゃる通りで御座います。そんな御無理をおっしゃる方のために必殺技「2ndポジション」を御用意して御座います。

ブルースハープはダイアトニック音階なので曲のキーに合わせたキーのハーモニカを使うのが基本だが、2ndポジションというのは、曲のキーの完全4度上のキーのハーモニカを使って演奏する用法。例えばC調ならFのハーモニカ、A調ならDのハーモニカを使うという具合だ。

するとどうなるかというと、曲のドレミファソラシドは、ハーモニカではソラシドレミファソを鳴らすこととなり、あら不思議、曲のシのフラットはそのまま出るし、ミとソはベンドでブルーノートな音が出せるようになる。これぞブルースハープの本領発揮!、ブルースやロックでは寧ろこちらの用法がファーストチョイスとなっている。

(図3)

とまあ、ブルースハープのごく基本的なところをダラダラ書いてみたが、実はベンドよりも数段難しいオーバーブロー(オーバードロー)という技を使えば、半音階全て出すことも可能って言やあ可能。でもそれをするなら素直にクロマチックハーモニカを使ったほうが楽だろう。

他にないブルースハープの魅力は、ガバッと咥えてリズム良く吹き吸いする「バンプ」であると言っても過言ではないからね。チャラチャラしたメロディは他の楽器に任せて、ブルースハープはバフバフッとカッコよく決めようぜ!


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KzSuyama

音楽を生業にしようと決心してからほぼ半世紀、 しかし未だに副業状態という未練たらたらのオジサンである。
過去にはTVゲームの作曲・編曲などで小金を稼ぎ、 現在はギターとハーモニカの講師で僅かなお駄賃を頂戴するボヘミアン。
でもまあ、このままいけば本業の退職後は音楽が生業になるぞ! って、こんな歳になってもプータロー気質が抜けない私をどうぞよろしく。

 
 
 

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