突然ですが、バンドで演奏している時に「自分のギターの音が聞こえにくい」と感じたことはありませんか?
リハーサルスタジオやライブハウスで演奏していると、多くのギタリストが一度は経験する悩みだと思います。
このとき、多くの人が真っ先に思いつく解決方法は アンプやエフェクターのボリュームを上げること でしょう。確かに単純に音量が小さいだけであれば、この方法で解決できます。しかし実際には、音量を上げても思ったほど聞こえやすくならないことがあります。むしろ、音が濁って聞き取りづらくなったり、他のメンバーから「音が大きすぎる」と注意されてしまったりするケースも少なくありません。
それでは、どうすれば自分の音をしっかりとバンドの中で届けられるのでしょうか?
今回提案したいのは、「音が聞こえないから足す」のではなく「音が聞こえないから引く」 という考え方です。
なぜ音量を上げても聞こえないのか?
まず考えてみたいのは、なぜ音量を上げてもギターの音が聞こえにくいのかという問題です。
その大きな理由の一つが マスキング です。
音楽におけるマスキングとは、ある音が別の音に覆い隠されて聞こえにくくなる現象のこと。特に似た帯域(周波数)で音を出している場合に起こりやすく、バンドアンサンブルでは頻繁に発生します。
例えば、スタジオやライブハウスに置いてあることの多いMarshallのスタックアンプ。4発キャビを鳴らすと、100〜200Hzあたりの低音域が豊かに出ます。しかし、この帯域はエレキベースと大きく重なる部分。ギターとベースが同じ帯域で音を出してしまうと、結果的にお互いの音が混ざり合って聞きづらくなり、全体の分離感が損なわれてしまうのです。

つまり、単純に音を大きくするだけでは解決できません。必要なのは「自分の音をバンドの中で分離させる工夫」なのです。
不要な帯域を削るという発想
解決策のひとつが 不要な帯域をEQでカットする ことです。
- ベースと干渉しているなら低音域を削る
- ボーカルと干渉しているなら中音域を削る
こうして他の楽器が鳴っているスペースを確保してあげると、自分の音が自然と浮かび上がり、結果的に聞こえやすくなります。
例えば、Marshallと相性の良い歪みペダルとして有名な BOSS SD-1。このペダルはエフェクトをかけた時に低域がカットされます。そのため、音が分離しやすく、バンドアンサンブルの中でも埋もれにくいというメリットがあります。単純な「音を足す」ブースターではなく、「不要な帯域を引く」特性があるからこそ重宝されているのです。
また、高音域にも注意が必要です。特に2kHz〜4kHzあたりは大音量で鳴らすと耳に刺さるような「痛い音」になりやすい帯域。必要以上に出ている場合は少し削ってあげると、耳馴染みの良いサウンドに仕上がります。
スタジオ定番の Roland JC-120 は4kHz付近にピークがあると言われています。この部分をほんの少し削るだけでも、扱いやすさが大きく向上し、バンド全体に馴染む音になります。
ROLAND ( ローランド ) / JC-120 ギターコンボアンプ
不要な帯域を見つける方法
では、どの帯域を削ればよいのでしょうか?これを探すために便利なのが パラメトリックイコライザー(パラEQ) です。
パラEQでは以下の3つを細かく調整できます。
- 中心周波数
- 帯域幅(Q)
- ゲイン(音量の増減)
使い方の一例を紹介します。例えばボーカルやメロディー楽器とぶつかりやすい中音域(500Hz〜2kHzあたり)を調整したい場合、次の手順で確認します。
- 中音域を目安に周波数を設定する
- Q幅を狭く設定する
- その状態で音量をブーストする
- 周波数を前後に動かす
すると、ある帯域で「コンコン」「カンカン」と不快に響く場所が見つかるはずです。その帯域こそが他の楽器と干渉している可能性が高い部分なので、そこをカットしてあげるとサウンドがクリアになります。

この方法はリハーサルやライブだけでなく、ミックス作業でも応用できます。宅録をしている方はぜひ試してみてください。
グライコとの違い
グラフィックイコライザー(グライコ)でも不要な帯域を削ることは可能です。しかし、グライコは動かせる周波数が固定されているため、どうしても「もう少し低域寄りに動かしたい」などといった微調整がしづらいのが難点です。
一方でパラEQは狙った帯域をピンポイントで操作できるため、マスキングを避けるにはより効果的です。
おすすめのパラEQ:Ibanez PTEQ
具体的な機材としておすすめなのが、Ibanezの PTEQ。
Ibanez ( アイバニーズ ) / PTEQ パラメトリック・イコライザー・エフェクター
低価格ながら本格的なパラEQで、ギターだけでなくベースやキーボードにも使えます。ライブでも宅録でも活躍するので、1台持っておくと非常に便利です。
「引き算の音作り」で得られる効果
EQで不要な帯域を削ることで得られるメリットは単に「自分の音が聞こえやすくなる」ことだけではありません。
- バンド全体の音がスッキリして聴きやすくなる
- 各楽器の役割が明確になる
- 自分の演奏のニュアンスが伝わりやすくなる
つまり、音を引くことでむしろ演奏全体の迫力が増し、楽曲の完成度が高まるのです。
「音作りは足し算」ではなく「音作りは引き算」。この考え方を身につけると、ギターの存在感は大きく変わります。
まとめ
バンド演奏で「自分の音が聞こえない」と感じた時、まず試してほしいのは単純に音量を上げることではなく、不要な帯域を削ること です。
- 低域がベースと被っていないか
- 中域がボーカルとぶつかっていないか
- 高域が耳に痛くなっていないか
これらを意識してEQを調整するだけで、驚くほど音が前に出てきます。
そして最終的には、自分の音だけでなくバンド全体のサウンドがより洗練され、聴く人にとって心地よい音楽へと変化していきます。
次にスタジオに入る時は、ぜひ「引き算の音作り」を試してみてください。
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