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木村健太郎というマスタリングエンジニア

2021-10-29

Theme:sound&person

サウンドハウスをご覧の皆様、おはようございます。DJのおわたにです。前回はギターのリペア……はそっちのけで映画「リズと青い鳥(http://liz-bluebird.com/)」の話をさせて頂きましたが、今回の記事はその「リズと青い鳥」でもサウンドトラックを手掛けたマスタリングエンジニアについてご紹介したいと思います。

突然ですが皆様、推しのマスタリングエンジニアっていますか?筆者にはいます。

音楽を作る工程には多くの場合、(1)演奏した音を録音するレコーディングエンジニア、(2)録音された音のバランスやその位置(定位と呼ばれます)などを調整するミックスエンジニア、そして(3)ミックスされた複数の楽曲を最終的に1つのアルバムとして納品する形へとまとめ上げるマスタリングエンジニアという3つの役職でエンジニアが携わります。どの工程もそれぞれの方法で出音に影響を及ぼしており、特にマスタリングは作品のトータルな部分を形作る工程のため年月を経た再発売の際はリマスターという”やり直し”を経て世に送り出されることも少なくありません(例えば大瀧詠一「A LONG VACATION」は20/30/40周年という10年周期でリマスター盤がリリースされており、それ以前にCDでリリースされた盤たちもアナログとの過渡期だったためマスタリングにおいてはいろいろな試行錯誤を経ています。面白いので是非wikipediaなどを参照してみてください)。

さて、そんなマスタリングという工程ですが、佐野元春や椎名林檎、電気グルーヴ、Cymbals、capsuleなどを手掛けたバーニーグランドマンの前田康二、またナンバーガールや初期コーネリアス、ART-SCHOOL、the cabsなどを手掛けたorangeの小泉由香などは普段からサウンドハウスをご覧になっている皆様にとってもその仕事を耳にしたことのある有名エンジニアなのではないでしょうか。そして今回ご紹介したいのは、筆者の推しマスタリングエンジニアであり、先に挙げたorangeやサイデラマスタリングで経験を積んだのちに自身が設立したスタジオkimken studioを拠点として活躍する木村健太郎氏です。

氏も電気グルーヴ(「30」など)や石野卓球ソロ(「WIRE TRAX 1999-2012」「CRUISE」など)を手掛けるエンジニアのひとりであり、またクラムボンの2016年のハイレゾ向けリマスタリングやSuiseiNoboAzの「liquid rainbow」、さらにはtoeの名盤1stといったオルタナティヴ/ポストロック、環ROYやMomといった日本語ラップも手掛けるなど、そのワークスは音楽好きのツボをことごとく突いてくるまさに錚々たる面々。しかし、氏のスタジオのHP(https://www.kimkenstudio.com/)にはこれまで手掛けた作品のリストや今まで携わったアーティストなどは一切載っておらず、いくつかのインタビュー記事でこれまで手掛けた作品やアーティストが一部紹介される程度です。これはもったいない、非常にもったいない。これはどうにかして紹介せねばならない。そんな思いから、今回の記事を執筆しようと思い立ったわけですね。

木村健太郎氏の手掛ける作品は多岐に渡りますが、そのどれもがひとつひとつの音がしっかりと見えてくるような迫力と音の良さを兼ね備えたサウンドで、特にSuiseiNoboAz「liquid rainbow」或る感覚「バイタルリスペクト」といったオルタナティヴロック寄りのアルバムでその傾向が見えてくるように筆者には感じられます。2017年リリースの1stアルバム「Whatever」で氏がマスタリングを手掛けたPa’s Lam Systemのメインコンポーザー・じゅうでんも、その仕上がりについて「事前に何も伝えていなかったのに、ミックスで気になっていた部分がすべて解決されていて、すごいと思いました」「全体的にグッとブラッシュアップされたので素直に感動しましたね」とSound&Recording Magazine誌のインタビューで語っています。

そんな木村健太郎氏ですが、今年リリースされた氏の手掛けた作品で筆者的に最もうれしかったのが6月にリリースされたSweet William「Beat Theme」です。Sweet Williamは唾奇やJinmenusagiといったイケてるラッパーとのアルバム/楽曲制作、またkiki vivi lilyやJ.Lamotta すずめなどのシンガーにも楽曲やリミックスの提供を行っている日本のビートメイカーであり、ソロ名義でも素晴らしい作品を次々にリリースしてきました。青葉市子との連名でリリースした「からかひ」「あまねき」の2曲も激ヤバです。 「Beat Theme」はアルバム「Brown」から約2年ぶりのソロ作であり、Sweet Williamには珍しく全曲インストゥルメンタルで構成されたビートアルバムなのですが、今作における氏のビートはオシャレでありながらも耳にひっかかる良い意味での違和感がそこかしこに仕込まれており、一言で言ってしまうと凄まじい出音が鳴っています。

木村健太郎氏がSweet Williamのマスタリングを手掛けるのはおそらく初めてなのではないかと思いますが、音源を聴くと確かに氏がマスタリングした意味みたいなものが見えてくるように感じられます。ヒップホップにおける楽曲制作はサンプリングを大々的に取り入れることにその特徴がありますが、Sweet Williamはサンプリングだけでなく自身で組み立てる鍵盤やベースラインが持つ独特のノリがキラリと光るビートメイカーであり、それは今作においても同様です。是非楽器をやっている人にこそ聴いていただきたいヒップホップ、それこそがSweet Williamなのです。そしてそんな彼の作品を木村健太郎氏が手掛けている……盤が届いてクレジットを確認した時のうれしさと言ったらなかったです。

そんなわけで、ヒップホップやテクノ、ロックなど色んなジャンルのリスナーにとって他人事ではないマスタリングエンジニア・木村健太郎氏のお仕事、皆様も是非チェックしてみてくださいね。筆者も氏がご使用なさっているスタジオモニターいつか使ってみたいです。では今回はこの辺で!

FOCAL ( フォーカル ) / Twin 6 Be Red ペア


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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owatani

97年生・DJ/音楽家。2016年秋より活動を開始、都内や神奈川を中心にイベント出演やmashupの制作などを行う。インターネット以降の感性を軸にハウス/ヒップホップ/ポップスなど自らの愛する楽曲を自由に、かつ精緻に編み込むDJを志向する。またブログ執筆やgoogleドキュメントの同時編集によるweb対談の主宰など、音楽にまつわる執筆でも活動中。
Twitter https://twitter.com/o_w_t_n
ブログ https://o-w-t-n.hatenablog.com/

 
 
 

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