数多の名機を世に送り出し、優れた品質と技術で常に業界をリードし続ける名門ブランドSENNHEISERから発売された「EW-DP ME 2 SET」を実際に使用してみました。
EW-DP ME 2 SETとは
ライブ・コンサートから映像収録まで、さまざまな業界でワイヤレス音声伝送をリードするSENNHEISER(ゼンハイザー)。
そんなSENNHEISERが提供する、動画撮影用オンカメラ・ワイヤレス・ラベリアマイクセット(無指向性ピンマイクセット)が「EW-DP ME 2 SET」です。
本製品は、免許不要のUHF B帯仕様となっており、オーディオ性能も申し分ありません。
134dBという非常に広いダイナミックレンジを持ち、定評のあるME 2無指向性ラベリアマイク(ピンマイク)がセットになっています。インタビュー収録にも最適な、プロフェッショナル向けのワイヤレスマイクセットとなっています。
スペックなどの詳細は、サウンドハウスの商品ページをご参照ください。
⇒ SENNHEISER ( ゼンハイザー ) / EW-DP ME 2 SET (T12)
今回は、動画撮影用ワイヤレスマイクということで、日頃から弊社の商品紹介動画や企画コンテンツを制作している立場から、制作現場の視点で見たEW-DPの特徴や強み、使用感などをお伝えしていきたいと思います。
ぜひ最後までお付き合いください。
1.9msの極小遅延
デジタルワイヤレスマイクを使用する際、まず気になるのは「音声の遅延」ではないでしょうか。
少し前まで、映像制作の現場ではアナログB帯マイクが主流でした。その背景には、「デジタルワイヤレスマイクは遅延が大きい」という旧時代的な印象が根強く残っており、現在でもアナログ式を愛用するプロが多くいるという事実があります。
しかし、近年の技術進化は目覚ましく、多くの低遅延デジタルワイヤレスマイクが登場したことにより選択肢も広がり、この認識は急速に変わりつつあります。
今回発売された EW-DP は、カタログスペック上でレイテンシー(音声遅延)が 1.9ms と記載されています。これは、人間が音の遅れを知覚し始める目安とされる 20ms を大きく下回っており、実際に撮影した映像と音声を確認しても、遅延はまったく気になりません。
安価なワイヤレスマイクで撮影した映像素材を編集ソフトで確認すると、映像に対して音声がわずかに遅れて聞こえる、いわゆる「リップシンクのズレ」が発生することがまれにあります。そのような場合、編集ソフト上で音声を1〜2フレーム前にずらすという調整作業が必要になることがあります。
しかし EW-DP では、そのような補正は一切必要ありませんでした。
もちろん、フレーム単位での厳密な同期が求められるシーンでは多少の注意が必要かもしれませんが、そういった場面では通常、有線マイクを使用することがほとんどです。したがって、インタビュー撮影などの用途であれば、EW-DPで十分に対応可能と言えるでしょう。

<UHF B帯を用いたデジタル変調で信号伝送>
134dBのダイナミックレンジ
従来のマイクとは一線を画す、驚異の134dBという広大なダイナミックレンジ。
この広いダイナミックレンジにより、音声がクリップ(音割れ)するリスクを大幅に低減し、予期しない音量の変化にも柔軟に対応できます。静かな環境から急に大きな音が鳴る場面に移行しても、録音レベルを調整することなくスムーズに撮影を続けられるのが大きな特長です。
テレビ番組のような大規模な制作現場とは異なり、低予算・小規模な撮影現場では録音技師や助手が常駐しているとは限りません。そのため、カメラマン自身が撮影と同時に録音レベルの調整も行う場面は少なくありません。
たとえば、少人数で行うインタビュー撮影を想定してみましょう。
RECボタンを押した瞬間から、カメラマンは露出やピントの調整、バッテリー残量や記録時間の確認、手ブレの抑制、画面構成、ライティング、被写体の表情や視線など、あらゆる要素に気を配りながら撮影を進めなければなりません。
さらにディレクションまで兼任する場合は、話の内容や進行のテンポ、話し手の口調や尺の管理まで求められることも。スケジュールの都合で撮り直しが効かない一発勝負の状況も多く、カメラだけでなく音声にも常に気を配ることは、大きな精神的負担となります。
また、人の声量はとても不安定です。プロのアナウンサーやレポーターのように常に一定の音量で話すのは、訓練を受けていない多くの人にとっては難しいことです。喋り出しでは声が小さくなりがちで、話が盛り上がると自然と声が大きくなるものです。従来のワイヤレスマイクでは、こうした変化に対応するために録音レベルをこまめに調整する必要がありました。
しかし、EW-DPの持つ広いダイナミックレンジを活かせば、どうでしょうか?
音割れの心配がほとんどなくなるため、逐一レベルを気にする必要がなくなり、カメラマンは映像に集中することができます。モニタリングは基本的にイヤホンやヘッドホンで行いますが、ノイズや通信エラーなどの異常にだけ注意を向けていれば十分です。
「クリップの心配がない」という安心感は、現場のカメラマンにとって大きな支えとなり、より自由な発想や集中力を引き出すことにより、クオリティの高いクリエイティブを生み出すチャンスにもつながるのではないでしょうか。
素早く使用することができる簡易性
箱から取り出して送信機と受信機の電源を入れるだけで、ペアリングは完了。あとは付属のケーブルで受信機をカメラに接続すれば、すぐに撮影を始めることができます。
せっかくなので、弊社スタッフによる屋外でのギター演奏をEW-DP ME 2で収録してみました。
EW-DP ME 2 SET (T12) SOUND SAMPLE
今回は、ME 2 ラベリアマイク(ワイヤレス用ピンマイク)を胸元に装着して収録を行いました。
ギター専用のマイクを使用しないシンプルなセッティングながらも、バランスの取れた音声がしっかり収録できています。また、先に述べたとおり、広いダイナミックレンジのおかげで、声量の変化にも対応でき、音割れすることなくクリアに記録されました。
なお、収録した音声は**編集や音声調整を一切行っていない“撮って出し”**の状態です。
煩雑な設定やペアリング作業が不要で、すぐに安定した収録ができる信頼性は、忙しい撮影現場において非常にありがたく、まさに「安心感」をもたらす存在と言えるでしょう。
最大12時間駆動のバッテリー&単3電池対応
バッテリーの連続駆動時間は最大12時間。それだけでも心強いですが、単3乾電池にも対応(最大連続8時間駆動)というのは非常にありがたいです。
多くの場合、撮影に臨む際は何があっても対応できるように常に複数バッテリーを持ち歩きますが、長時間の撮影によるバッテリーの枯渇や充電のし忘れ、故障のリスクは常にあります。しかし単3乾電池対応であれば予備としてバッグの中に長期間入れたままでも問題ありませんし、必要であれば出先のコンビニなどで24時間いつでも買うことができ、トラブルにも対応しやすいというのは大きな強みです。


<単3乾電池対応の受信機 & 送信機>
軽量コンパクトな受信機 & 脱着が容易なチーズプレート
受信機はとても軽く、約350グラム(バッテリー含む)となっています。ディスプレイは小型ながらも視認性が高く、レベルの確認や調整がしやすいです。専用チーズプレートを装着することで強力なマグネットでカメラに装着が可能となり、堅牢かつ脱着も容易なため、撮影内容にあわせて付け替えも楽に行えます。ただしカメラの素体そのままに装着するにはホットシューを使用してしまうため、専用ケージなどに取り付けることをお勧めします。

<SONY / α7Ⅳの専用ケージと共に取り付けた受信機>
また本製品は受信機1機につき1chの受信のため、2台のマイクを使用したい場合は下記の写真のように受信機を複数使う必要があります。

<受信機はマグネットによって重ねて取り付け可能>
強力なマグネットを使って縦に重ねることで簡易化と省スペース化を図られており、ユーザーのアクセシビリティを考えた、ゼンハイザーらしい丁寧なモノづくりの精神を感じました。
最大10機までの同時使用が可能
伝送距離は最大100mで、同一現場で最大10機まで使用可能となっています。10機をフルに使うことは状況的にはあまりないとは思いますが、混線の心配は無さそうです。大型イベント会場で複数台のカメラとEWを使用し、同時並行でレポートやインタビューなどを行う撮影にも対応できますね。
個人的な希望
非常に満足度が高いEW-DPですが一とおり触ってみた上で、「こうなったら嬉しいな」という点も述べたいと思います。
ウインドスクリーン
今回はME2 ワイヤレス用ラベリアマイク付属のセットを使用しましたが、こちらに装着できる専用ウィンドスクリーンがあれば嬉しいなと感じました。ワイヤレスマイクは屋外での撮影の使用頻度も高く、風が強い天候下でも使用することを想定すると、やはりウィンドスクリーンは必要かと思います。初期セットに同梱していなくとも、今後アクセサリーとして発売してくれるとありがたいです。
ラベリアマイクのクリップの位置
同じくME2 ワイヤレス用ラベリアマイクについてですが、クリップで固定する位置がマイク部分のやや下、ケーブルの部分になっています。マイク部分が固定されていないので装着者が動いた際にプラプラと動いてしまう可能性があるのでこの部分は注意が必要かもしれません。マイク自体をしっかりホールドできるクリップにしていただけると、より安心して使えます。

<ME2 ワイヤレス用ラベリアマイク>
送信機のクリップ
送信機は取り付けた際に映り込みを極力避けるため、多くの場合装着者の後ろ腰や尻ポケットに取り付けます。稀にあることなのですが、装着者が送信機の存在を忘れ、座った際などにぶつけて故障してしまうこともあります。EW-DPの送信機は取り付け用のクリップが本体固定の仕様になっていますが、専用ホルダーを使ったセパレート式であれば衝撃が加わった際に本体がホルダーから外れて故障を防ぐことができるため、XSW-Dシリーズに付属していたようなセパレート式のホルダーだとうれしいです。

<送信機本体の脱着可能なクリップ>
受信機の音量調整ボタン
技術的に難しいかもしれませんが、音量調整ボタンは押し込み式ではなく無段階調整のダイヤル式だと嬉しいなと思いました。カメラ上部に装着して使用する場合、押し込み式のボタンは操作の際にポチポチと力を入れる必要があり、手ブレの原因にもなってしまいます。軽いダイヤル式であれば押し込み式ほど力が必要ありませんし、微調整もしやすくなるのではないかと思います。ただしこれは誤操作の可能性を高めることになりかねませんので、人によって好き嫌いは分かれるかもしれません。

<受信機の操作ボタン>
いかがだったでしょうか。
今回はSENNHEISER EW-DPを触った所感を制作現場の目線から述べてみました。
業界標準の音質と信頼性を提供し、軽量、コンパクトながらも優れた受信範囲と安定性を実現。セットアップも簡単で、慌ただしい撮影現場でも迅速に使用可能。
現場での収録に『安心感』を求めるプロにとって、最適な選択肢の一つになるのではないでしょうか。