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音と照明:80年代以降のスペクタクル・ステージ(ジェネシス・ピンク・フロイド)

2018-03-20

Theme:音楽とアート

80年代のスペクタクル・ステージ

1980年代、コンサートの演出はよりダイナミックに変化していきました。その流れを変えたのは照明の分野です。1981年にアメリカの照明会社が革命を起こします。それは、今までにない、照明が生き物のように動くムービングライトの発明でした。その会社は「バリライト」。バリライトは、色彩・光量・光の方向等を多数のライトで自由自在かつ効果的に用いることができる遠隔操作システム。要はコンピューター制御で曲や舞台進行に合わせて照明を動的に操る技術でした。当時はアップルのコンピューターが使われたと記録に残っています。そのインパクトから、ムービングライト自体をバリライトと呼ぶこともありますが正式には間違いです。バリライトが初めて使用されたのは1981年の9月にスペインのバルセロナで行なわれたジェネシスのライブでした。

GENESIS 1984年のステージより

ジェネシスはバリライトと一番初めに手を組み開発を進め、経営にも携わり筆頭株主となります。バリライトというネーミングもジェネシスのマネージャー、トニー・スミスが命名したものでした。ジェネシスはそれまでもステージで照明を効果的に活用してきたバンドでした。1970年代は3面で展開するスライドなどを扱い、1978年のツアーでは巨大な鏡に照明やレーザー光線を反射させ、鏡を稼動させることによって光を動かすというライブを行ないました。

GENESIS 1976年のスライドを使ったステージより

GENESIS 1978の鏡を使ったステージ

このアイデアはバリライトの構造に通じています(かなり大掛かりですが)。アメリカの新進気鋭の照明会社は、その実績に目をつけ、エンターテインメント・アーティストではなく、ロック・バンド・ジェネシスにアプローチしたものと考えられます。以降30年近く、コンサートを中心に、バリライトはエンターテインメントを視覚面から牽引してきました。そのバリライトを特に効果的にかつ衝撃的に伝えたもうひとつのバンドはピンク・フロイドでした。ライトの使用数も多く、制御するはずの照明をわざと暴れさせるように演出し、観衆の度肝を抜きました。

Pink Floyd HD Run Like Hell 1994 (後半の演出は圧巻)

90年代になると、バリライトの筆頭株主はジェネシスのフィル・コリンズとなります。これは単純にジェネシスのメンバーの中で一番稼いでいたからでしょう。また数多くのアーティストがバリライトを使用し、その使用料で会社もジェネシス・サイドも潤ったと聞きます。バリライトは日本にも進出しました。バリライトの豪華なカタログには「こんなアーティストも使っていたの?」というラインアップがステージ写真と共に掲載されています。ジェネシス、ザ・キュア、ケニー・G、ディオ、ブライアン・アダムス、デペィシュ・モード、ザ・プリテンダーズ、デヴィッド・ボウイ、ザ・ローリング・ストーンズ、ローリー・モーガン、ジーザス・ジョーンズ、ドン・ヘンリー、Sade、ピンク・フロイド、ジョージ・マイケル、ビリー・アイドル、マイケル・W・スミス、ビリー・ジョエル&エルトン・ジョン、モトリー・クルー、ポール・マッカートニー、デフ・レパード、ムーディー・ブルース、フィル・コリンズ、ジョージ・マイケル、Yanni、クイーンズ・ライク、ラッシュ、ティナ・ターナー、ボン・ジョビ、ジャネット・ジャクソン、ダイアー・ストレイツなど。日本では、松任谷由実が1988年ピンク・フロイドのコンサートを見て、自身のコンサートにバリライトを導入しています。

ピンク・フロイド 1994年のツアー。映像と照明の融合。

長い間、大掛かりなステージで大活躍していたバリライトですが、中国産の格安ムービングライトがシェアを拡大し、価格競争で太刀打ちできなくなってしまいます。一方で、ムービングライトはテレビ番組や演劇、さらにはライブハウスのシーンへと拡大し、擬似バリライトを身近に感じられるようになったのも事実です。

ムービングヘッド一覧
https://www.soundhouse.co.jp/search/index?i_type=c&s_category_cd=1935

Nakajima

自由気ままに雑多なことを書きなぐっていきます。根底にあるのは「愛と音楽」。世の愛すべき事象にスポットを当て、音楽好きに共感してもらえる記事を執筆していきます。プライベートでは、週末となればドラムを叩き、ライブや映画、展覧会などを楽しむアクティブ派。

 
 
 

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