CDの読取メカニズムについて解説します。CDは1982年に製品化され、今年2022年なので、ちょうど40年経ちました。今となっては古典的ともいえる光ディスク技術ですが、繊細で高度な制御技術の上に成り立っています。
■ 読取メカニズム概要
ディスクにあるピットを読むために必要な駆動系は赤字の4つになります。各役割は以下のようになります。
■ フォーカスサーボ 焦点の調整
ディスクは完全な平面ではなく、多少なりとも反っています。そのためピット面は常に上下に揺れます。ディスクの状態にもよりますが0.5mmぐらいの差は出るようですが、読取装置としては1mmぐらいの差は問題なく読めるようになっています。つまりディスクが高速に回転するときは9回転/秒ぐらいの揺れというか、振動になっています。高低差が1mmもあると1秒間に9回もフォーカスを最大限に動かす必要が出てきますが、フォーカスを調整しながら、ピットを正確に読み取り続けるわけです。
■ トラッキングサーボ 誤差補正
ピットのトラックは渦巻き状ですが、ピットの幅は0.5μmで隣との距離は1.6μmです。トラックを見失わず正確にトレースするために必要なのがトラッキングサーボです。ディスクの中心とモータの中心は簡単な爪で固定しているだけなので、必ず偏芯があります。つまりディスクはモータ軸に対して、完全に同心円で回転することはできません。図の矢印の方向にズレが発生し続けます。これを補正するわけです。
■ スピンドルモータ ディスクの回転速度の調整
ピットに対して一定速度で読み取ります。つまりディスクの回転数は内周と外周では速度が変わります。調整方法は読み込んだデータから、最適な回転数を割り出し、修正し続け、一定の速度をキープします。
■ キャリッジモータ 送り制御
ピックアップ全体を移動するための制御です。ウォームギアなどを回して制御しています。この動きの方向はトラッキングサーボと似ていますが、細かな動きはトラッキングサーボが行い、キャリッジモータは細かな動きはしません。再生時は内周から外周へとゆっくりと動いていきます。再生が終了すると一気に最内周まで戻ります。
下写真が、実際のCDプレーヤーのピックアップ部になります。
裏から見ると、スピンドルモータやキャリッジモータが確認できます。
■ 1000倍スケールでイメージ
以上のような駆動制御でCDのピットを光学的に読み取っているわけですが、ピットの大きさが小さすぎて、イメージしにくいと思います。そこで1000倍の大きさにすると下図のようになります。1000倍は単位を変更するだけなので何かと便利な数値です。
CDは直径120mの円盤で、厚さは1.2mです。ピットは幅0.5mm、高さ0.1mm。そのピットを約3m下のレンズからレーザーで狙い撃ちします。これだけでも至難の技です。CDは高速に回転します。実際は1.25m/secですが、1000倍スケールでは、時速4500kmとなります。新幹線が時速300km、ジャンボジェット機でも時速500km、時速1000kmを超えるものは戦闘機やロケットというものになります。それでも時速3000kmぐらいです。3m先で時速4500kmのスピードで回転し、その表面にある0.5mmのピットにレーザーを当て続けるわけです。1.6mm離れた隣トラックのピットに当たってしまうことは許されません。
さらに常に3m先にピットがあるわけではなく、1mぐらい上下に毎秒9回ぐらいで振動しています。偏芯もありますので、左右にも揺れまくります。そのような状態でも失敗することは許されず、74分間ミスなくピットにレーザーを当て続けます。人間が手動でやることは不可能なのは明らかです。このような作業をCDプレーヤーは平然とやってのけるわけです。
■ レーザー(780nm)
CDプレーヤーは、0.5μmという幅のピットに光を当て信号を読み取ります。光を集光させて2μm程の極小点にまで光を集めたいわけです。LEDなどを使った場合は発光面よりも小さくすることができず、2μmという極小点の集光は無理なのです。その点レーザーは、整ったコヒーレンスな波を実現しています。極小点にすることができ、干渉を利用することが可能です。CD開発にはレーザー技術が必須でした。しかし1980年ごろは、赤外線半導体レーザーを量産できたのはシャープ社だけでした。ソニー社は1985年から半導体レーザーの自社生産を始めます。ソニー社は要素技術の開発にも積極でした。レーザーは20世紀の偉大な発明のひとつです。
下は壊れたDiscmanから抜き取ったレーザーなので、ソニー製だと思います。子供のころCDプレーヤーにレーザーが使われていることを知り、何よりもレーザーが欲しかったのを思い出します。
■ プラスチックレンズ
レーザーを集光するためのレンズは重要です。フォーカス、トラッキングの際に動く部分ですので、小さく軽量である方が良いのですが、レンズは元々光学ガラスを削って製作するものです。CD用に求められる性能を実現するには、球面レンズを複数枚重ねるなど、重たく高価なレンズとなっていました。そこで1枚で実現する非球面レンズというものがあります。しかしガラスで作る非球面レンズは、これまた高価になってしまいます。そこでプラスチックレンズの登場です。プラスチックであれば、金型さえ作ってしまえば、量産しやすく、安価に作ることができます。この分野で圧倒的だったのがコニカ社でした。レンズ開発は他社が参入するのは難しく、独自ノウハウによってコニカが長年に渡って市場を独占していました。
下写真が非球面プラスチックレンズで、表面にコーティングがされています。コニカ製だと思われます。
■ 信号変換回路
CDプレーヤーには、上記のメカ以外に、読み取ったデジタル音声をアナログ音声に変換するDAコンバーター等も内蔵されています。現在はPCからオーディオファイルを再生することも多くなったため、DACやオーディオインターフェイスのDA/AD変換部分が注目を集めています。ここでは音声デジタル信号をアナログ信号に変換したり、その逆の処理をします。必須の機能で昔からあるものですが極めて重要な部分となります。オーディオ機器では入出力機器ほど音質差が出るものですが、デジタル時代ではデジタル/アナログ変換も無視できないぐらい差が出やすいといえます。日進月歩の分野で、心臓部のICは半導体メーカーが担っています。日本では旭化成が有名です。DA/AD変換については、ジッターなどややこしい話もあるので、そのうち解説したいと思います。
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