和音に関して、倍音という視点で、スペクトラムアナライザを使いながら見ていきたいと思います。 メジャースケールの各7音と基音との関係を、倍音として出現する順に並べています。 サウンドは倍音の多いストレートなノコギリ波を使います。 この波形は高い倍音まで比較できるので、調和具合のチェックができます。 各7音はそれぞれの倍音の位置で鳴らしています。

また平均律だと誤差が目立つこともあり、純正律も兼用してサンプルを作りました。 下図は倍音の配置図ですが、グレーの等間隔の放射状が平均律で、青い放射状が純正律となります。 32倍音までプロットしていますが、平均律、純正律の線から離れてしまっている倍音があるのが確認できます。 倍音数を増やしていけば、近づく倍音が出てきますが、高次倍音になればなるほど基音との馴染み具合は薄れて行きます。 そのため以下のサンプルでは、2音だけ転回形を使って低次倍音にしています。

オクターブ(2倍音)
以下はノコギリ波C2に対して、オクターブ違いのC3のノコギリ波を徐々に加えたものです。 相性がよく、倍音もひとつおきに、ぴったり重なります。

音にすると新たなオクターブ上の音は、倍音に完全に重なっているため、徐々に入ってくる場合は目立ちません。 後半はオン/オフさせて、分かりやすくしています。 オクターブ差は馴染み過ぎて、和音という印象があまりない音と言えます。 馴染み具合の目安としては、基音が有する倍音の何パーセントがレベル変化したかをチェックすると分かりやすいと思います。 オクターブの場合は、ひとつおきなので、仮に50%ということにします。
完全5度(3倍音)
完全5度は3倍音なので、左から3番目が基音となります。 その倍音もきれいに重なっています。 特徴としては基音を補完するような役目で色付けはあまりしません。 基音と5度の音はオクターブの次に相性が良いと言えます。平均律でもズレは許容範囲です。 馴染み具合は33%です。

長3度(5倍音)
長3度は5倍音なので、左から5番目が基音となり、メジャーコードを作る上で重要な音になります。 純正律で作っているので、きれいにルートの倍音に乗っているのが確認できます。 平均律ではズレによる濁りが目立ちますが、倍音が少なかったり、サスティーンが短ければ、それほど気になりません。 馴染み具合は20%です。

長2度(9倍音)
長2度である9倍音は、純正律でも平均律でも誤差がほとんどなく扱いやすい倍音です。 見方によっては3倍音の5度上であると言えます。 実用的なコードとしてはナインスコードの重要な音になります。 音楽理論的にはテンションとなり、難しそうな扱いを受けますが、倍音として見た時には親和性が高く使いやすい音と言えます。 馴染み具合は11%です。

長7度(15倍音)
純正律であれば、倍音の中にきれいに納まってくれます。 ただし2桁倍音になり、基音からの距離があり、どうしても浮いた印象があります。 馴染み具合は、6.7%ということになります。10%を切るとあまり溶け込んだ印象はありません。 低次倍音ほど、基音との結びつきが強く馴染みやすいので、15倍音は微妙な位置と言えます。

長6度は転回形で19倍音扱い
長6度は純正律ではズレが大きく、平均律でも若干ズレがあるため扱いが難しいです。 また27倍音なので、基音からかなり遠くなり、馴染み具合も3.7%と浮いた音になりやすいです。 そこで転回形にします。 長6度を基音よりも低くすることで、基音を19倍音の短3度のように扱っています。 それでも馴染み具合は5.3%とかなり低くなってしまいます。 これは平行調のマイナーキーということになります。マイナーキーは理論的にもややこしくなってしまう問題を抱えています。 より低次倍音扱いしたい場合は、9倍音の5度上という考え方もできます。 つまり、基音に直結する音ではなく、長2度と相性がよい音として扱うわけです。 馴染み具合を優先させる場合は、1桁の倍音でありたいものです。

完全4度は転回形で3倍音扱い
完全4度は21倍音と考えると、純正律、平均律いずれもズレがあり調和しにくい音程です。 さらに高次倍音にする考えもありますが、馴染み具合が極端に減っていきます。 そもそもオクターブを12音分割する考え方は5度が基準となっているので、厄介でもあります。 ということで、これも転回形にします。 完全4度を基音よりも低くすることで、基音を3倍音の5度上のように扱っています。

まとめ
ほとんどの音は、基音であるノコギリ波の倍音と一致します。 言い方を変えると、倍音レベルが一部変化しただけで、倍音構成は基音ノコギリ波と全く変わりません。 倍音のズレがない状態では完全に調和し、濁りも感じません。
実際の和音はオクターブ以内でクローズド・コードとして構成したり、平均律では、基音と倍音が必ずしも一致しないので、上記のような調和は難しくなります。 それでも上記の倍音との関係性を知っていると便利なことがたくさんあります。
特にベースの配置で、全体のサウンドの安定性を制御できるようになります。 上記を見れば、ベースの倍音が豊かであればあるほど、サウンド全体を包み込むイメージが出来ると思います。 ベースは単音であるにも関わらず、倍音豊かで全音域に影響を及ぼしているわけです。
最後に倍音をランダムに加えた実験をしてみます。 全ての音はひとつのノコギリ波に内包されます。
次回は倍音から見たメジャーコードとマイナーコードを考察してみます。 一般的にメジャーコードは明るい響きとされ、マイナーコードは悲しい響きとされていますが、 果たして、そう言い切れるかどうかを倍音から探ってみたいと思います。
コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
投稿についての詳細はこちら