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蠱惑の楽器たち 22.声5(共鳴)

2021-11-25

Theme:sound&person

説明上、発声の区分として、呼吸、声帯、共鳴の3つに分けています。最後は共鳴についてです。ここでは声帯で作られた原音を周波数的に削ったり、強調したりします。シンセサイザー的にはフィルターということになります。

■ フォルマント

声帯で発声した音は、ブザーのような音で、音程はありますが、アイウエオなどの母音は作れません。母音を作り出しているのは主に口腔内の形状となります。ここで周波数帯域ごとに強弱をコントロールすることで母音を実現しています。強められる帯域をフォルマントと呼んでいます。母音を発声する場合、複数のフォルマントで構成されていて、やや複雑な振る舞いとなります。またフォルマントの周波数帯域は固定されているものと、音程によって移動するものがあります。これらを組み合わせて、その人の声となるわけです。

■ 母音

日本語の母音の数は5音ですが、「ん」も入れれば6音と言えます。母音の数は言語によって違いますが、北欧圏では40音程度と、かなり多い母音を使い分けています。言葉の発音としては、母音と子音で構成されますが、母音は声帯の振動を伴い、子音は伴わないと考えてよいかと思います。

母音では共鳴が重要になってきます。共鳴によって、母音を作り出し、同時に音量も確保します。電子的に「あいうえお」を作ってみました。下動画は、それを周波数で見れるようにしたものです。電子合成的には、多くの倍音成分を含むノコギリ波に対して「あいうえお」の発音をするためのフォルマントを設定したものす。フォルマントの周波数が分かりにくいですが、倍音のピークが母音ごとに変化しているのが確認できると思います。実際には倍音の出方はあくまでも目安にしかすぎません。音域によっても大きな差があります。

また、「い」「え」は高次倍音が必要なのも確認できると思います。また「う」「お」は近似していますが、「う」は、倍音が少なく暗い音で、かなりこもった感じに聞こえます。

上記のような低い母音は倍音が豊富に含まれているので、「あいうえお」の発音は割と明確に出来ますが、高い音になると倍音が不足することで、不明瞭になります。ソプラノ歌手の高音域での発音が難しい理由は、ここにもあります。

■ 猫の「いえぁおう」

「あいうえお」という並びですが、早口だと言いにくいと思いませんか? 明るい音から暗い音に移行する母音に並び変えると「いえぁおう」となります。さらに音程を下降させ高速に発音すると「ニャオン」と猫っぽく聞こえます。人が発音する場合でも「いえぁおう」は、口腔内の形状がスムーズに移行するので言いやすいです。ただし「あ」は明確にすると発音しにくくなるので、やや曖昧なぐらいがスムーズでしょうか。猫は効率よく多くの母音を含んだ鳴き方をしているようにも聞こえるというわけです。

■ 発音しやすい音

世界的にも共通している発音というものがあります。人が発音しやすい音の並びは、そのまま意味を持つ言葉になっていきます。赤ちゃんが発音する音で、世界共通なのは、「まま」でしょうか。日本語だと「まんま」になるし、英語圏では「ママ」になったりします。口を開けて適当に発音すると出てしまう音なわけです。以前人工声帯の実験をしたことがありますが、そのときに出しやすかった音は、やはり「まま」でした。そして破裂音にすると「ぱぱ」も出しやすかったです。

■ 鼻腔の共鳴

母音は口腔内の形状変化で操作していますが、歌で使う場合には、響きが重要です。口腔内だけでも共鳴しますが、鼻腔の共鳴も兼用すると、より響くことになります。

呼吸のところでも書きましたが、哺乳類の多くは吸気で鳴いています。これは鼻腔共鳴をうまく利用しているケースが多いと思います。構造が人とは大きく違うので、同列では扱えないですが、吸気の方が響きやすいという事実があります。人は普段吸気で発声することはないので、あまり試さないと思いますが、一度試すと、鼻腔の共鳴力を直接的に体感できると思います。裏声のポジション、つまり声帯を半開きにして声帯を部分振動させるとやりやすいと思います。ちょうど、あくびをするときに声が出てしまうことがありますが、あの状態に近いです。その感覚を呼気で歌うときにも忘れないようにすると、よく共鳴すると思います。吸気発声は原始的で、理にかなっているので、何かとヒントになると思いますが、発音の大部分は口腔内で行っていますので、鼻腔共鳴の割合が増えるほど曖昧な母音発音になっていきます。また音域が上がれば鼻腔共鳴の比率が自然と上がっていきます。高音域の発声、発音が難しい理由がここにもあります。

■ 最後に

声について、呼吸、声帯、共鳴の項目で簡単に紹介しましたが、おそらく一番厄介なのは声帯のところだと思います。まだよく分かっていないところも多く、主観が入りやすい部分です。声帯の動きはスコープ等で観察出来なくもないですが、かなり大がかりな話になってしまい、状態と音の関係が、なかなか体系化されないようです。


コラム「sound&person」は、皆様からの投稿によって成り立っています。
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achapi

楽器メーカーで楽器開発していました。楽器は不思議な道具で、人間が生きていく上で、必要不可欠でもないのに、いつの時代も、たいへんな魅力を放っています。音楽そのものが、実用性という意味では摩訶不思議な立ち位置ですが、その音楽を奏でる楽器も、道具としては一風変わった存在なのです。そんな掴み所のない楽器について、作り手視点で、あれこれ書いていきたいと思います。
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