
発売と同時に全世界で大ヒット。このアルバムがラジオで紹介された時に、ビルボードチャート200に10年以上チャートインしていると語られていたのをよく覚えている。発売から10年も経っているのに凄いと素直に驚いたものだ。実際には15年間もチャートインしていた化け物アルバムだ。日本でも発売当時オリコンチャートの2位まで上昇した。ではなぜ、このアルバムが売れたのか?そこには、コンセプト・アルバムやトータル・アルバムといった作品が社会的に受け入れられた背景があると思う。既にザ・ビートルズやザ・フーなども先駆者としてアルバムは制作していた。
一方でここまで明確なテーマを持ったコンセプト・アルバムは、それまでなかったのではないか?テーマは人間の狂気である。そのテーマを月の裏側の闇の部分になぞらえ、曲は進行していく。テーマは重いがそれぞれの楽曲は実にキャッチーである。合間に散りばめられた効果音も楽曲を彩る要素となっているようだ。心臓の鼓動に始まり、曲はメドレー形式で進行し、心臓の鼓動により終わる。その間に笑い声、会話、爆発音、時計の針、飛行機の音やレジスターといった効果音が挿入される。

効果音で手腕を発揮するのはアラン・パーソンズ・プロジェクトのアラン・パーソンズ。1973年という時代に、効果音によるテープコラージュを行っていたのは、革新的なことだったと思う。

高校時代、美術の先生はピンク・フロイドが大のお気に入りだった。一番初めの授業で、卒業生の作品をスライドで映す時、先生がBGMにチョイスしたのは、この「狂気」だった。「タイム」の冒頭、目覚まし時計が一気に鳴るシーンで、寝ていた高校生が全員起きた。先生は笑っていた。私もその光景を楽しんだ。いや、寝ていて叩き起こされた一人だったかな?(笑)
このアルバムがピンク・フロイドの代表作であることは間違いないだろう。シングルカットされた「マネー」のヒットにより、アメリカでも注目され、アルバムも売れた。アルバムを買うと、ポストカードやポスターのおまけがついてくる。音を楽しむだけではなく、哲学的な詩の世界も含め、立体的に楽しめる作品になっている。そしてピンク・フロイドの凄いところは、その後も「炎」「ザ・ウォール」といった傑作を生み出し続けている点だ。