カバー・アートから聴こえてくる音楽
Roger Dean (ロジャー・ディーン)

ユーライア・ヒープ『Sea of Light』
2009年、映画『アバター』が大ヒット。そこにはこれまで見たことのない風景がリアルな映像として展開されました。ヒットの要因にVFX技術をフル活用した背景がもちろんあるのですが、古くからの洋楽ファンであれば「あれ?この風景、イエスのアルバム・ジャケットに似てない?」と思ったはずです。その映画に噛み付いた人物がいます。「これは盗作ではないか!?」イエスやエイジアなどのアルバム・ジャケットを手がけたイラストレーターのロジャー・ディーンご本人。このエピソードもロック・ファンの間では、話題になりました。重力を無視して浮かぶ島。その島から流れ落ちる滝など、要素は確かにそっくりです。裁判まで起こすも結果は負けてしまいました。共通するのは、具体的な事例ではなく、感覚的な印象であることが大きかったのではないでしょうか。ただ、何度も言いますが世界観はそっくり。どちらが先と言われれば、1970年代より活躍していたロジャー・ディーンに軍配が上がるでしょう。

イエス『イエスソングス』

イエス『イエスソングス』
ロジャー・ディーンはインダストリアル・デザイナーとして、家具やインテリアの勉強をしていました。美術学校卒業後、ロニースコット・クラブの改装デザインを行い、そこで知り合った音楽マネージャーを通じて業界との接点を持っていきます。新設されたばかりのヴァーティゴ・レーベルのアーティストを中心にアルバム・ジャケットを手がけ、さらにそれぞれに独創的なロゴ・デザインを制作。彼の仕事は他のレコード会社のレーベル・デザインまで発展し、初期のヴァージン・レコードのデザインなども手がけています。

ヴァージン・レコード『レコード・レーベル』
70年代初頭には、イラストレーターとして活躍するようになったロジャー・ディーンのその後を決定付けたのが、イエスとの出会いでした。彼のイラストを見たアトランティックのイギリス支社長がブレイク寸前だったイエスのアルバム・ジャケットを依頼します。イエスの4作目となるアルバム『こわれもの』以降、ロジャー・ディーンはイエスのビジュアル担当として、ロゴ・デザイン、ジャケット・デザイン、さらにはインテリア・デザインの経験を生かし、大規模なステージセットまで手がけることとなります。一方でメンバーのソロ・作品のジャケットに至るまで、これほどアーティストと一緒に歩んだ作家はいないのではないでしょうか?

イエス『イエスソングス』

エイジア『ALPHA』

イエス『クラシックイエス』

ロジャーがデザインしたイエスのステージ
現在でも、イエスを含むアーティストたちとのプロジェクトは友好的に続いています。70年代には「6人目のイエス」と言われていましたが、現在、イエスがメンバーチェンジを繰り返しており、何人いるのか?わからない状態です。彼はいったい何人目なのでしょうか?(笑)
彼のイラストを見れば、「あぁ、イエス方面の人たちの作品ね」と思われるのは、良いのか悪いのかわかりませんが、ブランド・イメージが音とビジュアルのセットで確立されていることは驚くべきことではないでしょうか。最近の作品はさらに画力がアップし、よりリアルに、それこそ映画『アバター』の世界に近づいている気がします。

Anderson Bruford Wakeman & Howe『Anderson Bruford Wakeman & Howe』

最後に。
ここにあるのはイエスのアルバムを連結させたもの。偶然繋がっているようにも見えますが、まったくの別作品です。当時はキャンバスに絵の具を、ぶちまけたり、垂らしたり、その偶然的に出来る形から描き込みを始めていたと記録に残っています。そんな偶然を自ら楽しんで描いた作品から、このような遊びも生まれたのではないでしょうか?

イエス『危機』インナー(左)+ イエス『イエスターデイズ』(右)

イエス『海洋地形学の物語』(左)+ イエス『リレイヤー』(右)