こんにちは!和楽器担当の荒牧です。
日本の音楽、今回は黒澤映画「乱」の音楽について紹介してみたいと思います。
「世界のクロサワ」と呼ばれるように、黒澤明監督は世界的に評価が高く「スターウォーズ」のジョージ・ルーカス、「ゴッドファーザー」のフランシス・フォード・コッポラ、「ジョーズ」のスティーヴン・スピルバーグなどは、黒澤映画から影響を受けていると言われています。
黒澤映画は前期(1943~1965年)の白黒、後期(1970年以降)のカラー作品に大きく分かれます。この「乱」は、1985年の後期作品です。ちなみに有名な「七人の侍」は1954年の作品です。
『乱』
監督:黒澤明
出演:仲代達矢, 寺尾聰, 根津甚八, 原田美枝子、宮崎美子、ピーター
音楽:武満徹
※敬称略
製作:1985年
内容
簡単にまとめると、家督を譲った一文字家の主・秀虎の3人の息子達が争い始め、国が崩壊していくというお話です。評価の高い、脚本、映像、衣装、キャスティングだけでなく、日本を代表する作曲家、武満徹が担当する音楽もとても素晴らしいものです。
作曲家 武満徹
黒澤監督はマーラーの交響曲をイメージしていたらしく、武満徹氏は重厚でスケールの大きな音楽により、そのイメージを具現化しています。また、効果音的に使われている笛の音が良い味を出しています。武満氏は日本の伝統楽器を使用する作曲家。代表作「ノヴェンバー・ステップス」は、和楽器(琵琶、尺八)とオーケストラを融合させた、前衛的な芸術作品です。ちなみにノヴェンバー・ステップスの尺八は、私が個人的に好きな尺八演奏家の横山勝也氏が演奏しています。
笛の音色
この映画の中で、盲目の少年が笛を奏でる、印象的なシーンがあります。かつて自分の家族を殺した相手に笛を聴かせて脅かすシーンなのですが、この篠笛の音がかなり不気味なメロディで、少年の復讐心がうまく表現されています。この素晴らしい笛は誰が吹いているのだろうと調べてみたら、有名な横笛演奏家の鯉沼廣行氏が指導と演奏を担当されていました。そして、この少年を演じるのは、狂言師として活躍されている野村萬斎氏です。当時17歳とのことですが、能の様式美を感じさせる手足の動きは、目を見張るものがあります。
大岡紫山 / 紫山 篠笛 黒塗 Fタイプ 7穴 7本調子
和楽器の音
所々で能管や太鼓などの和楽器が沢山使われています。特に笛の音は、これ以上ないと思うくらい、各シーンの雰囲気に合っています。全体的に一つの芸術作品として音楽が作り込まれていて、刀と刀がぶつかり合う音、馬の蹄の音すら、楽器の一つとして構成されているように感じられます。
ZENON / 能管 樹脂製
もちろん、この映画は音楽以外の評価も高く、アカデミー賞に3部門ノミネートされ、衣装デザイナーのワダ・エミさんが衣装デザイン賞を受賞しています。内容的にも、親子愛、相続問題、戦争の悲惨さ、などがテーマになっていて、とても深い作品です。和楽器に興味のある方、映画好きの方は、ぜひ一度観てください。