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名画と共に生まれた名曲 ― ディア・ハンター(1978年)

2018-02-19

Theme:映画と音楽と

琴線に触れるという言葉がある。琴線とはもともとは琴の糸のことだが、物事に感動する心の奥の心情を表すものとして「琴線」という言葉が比喩的に用いられている。よく鼻の奥がツーンとなったり、気がつかぬ内に涙が出たり。それは映画や音楽など、さまざまなものが引き金となって現れる。そんな時「この音色が琴線に触れて、泣けてくる」などと使う。今回、紹介するのはマイケル・チミノ監督のディア・ハンター。といっても映画ではなくそのテーマ曲となった「Cavatina」である。スタンリー・マイヤー作曲で、演奏はオーストラリアの名ギタリスト、ジョン・ウィリアムスが担当している。元来はイタリア語で「楽器が奏でる音色」を意味するカヴァータ(cavata)の縮小形。まさにクラシック・ギターの音色を存分に活かした名曲として、数多くのミュージシャンにカヴァーされている。日本では村治佳織もカヴァーしている。

では、なぜこの曲に心打たれるのか?それはこの曲が登場するエンディングまでの説明をしなければならない。ディア・ハンターは鹿狩りという意味だ。ペンシルバニア州ピッツバーグ郊外で、休日ともなれば鹿狩りを楽しむ若者にベトナム戦争への徴兵が迫っていた。壮行会では必ず戻ってくる誓いとして、同時に結婚式を挙げる者もいた。ベトナムでのアメリカ軍は苦戦を強いられ偶然戦地で再会した3人(マイケルとニックとスティーブン)は捕虜となってしまった。北ベトナムの兵士に、仲間同士で銃をこめかみに当て自ら引金を弾く“ロシアンルーレット”を強要され、半狂乱になる若者。マイケルの判断でなんとか窮地を脱出したが、スティーブンは足を骨折し、後に両足を切断することとなる。3人はバラバラに帰国するはずだったが、ニックだけは音信不通。マイケルはサイゴンからスティーブン宛に送られてくる謎の送金をニックからだと確信し、再びサイゴンに旅立つ。

ニックはアンダーグラウンドのロシアンルーレット会場にいた。一発の玉が入ったリボルバーを交互にこめかみに押し当て引き金を引いていく。その恐怖に動じない男がいた。ニックだった。その精神はすでに崩壊していたが、彼を故郷に連れ戻そうとマイケルはニックとのロシアンルーレットに臨む。ニックに語りかける。

「鹿狩りを覚えているか?」…ニックはまったく反応しない。
「想いだせ!」
ニックは微笑み「一発だろ?」
マイケルは言う「そう!一発で仕留めるんだ」
銃声が鳴り響きニックは崩れ落ちる。マイケルは息絶えるニックを抱き吼えた。

 

ベトナム戦争を美化しすぎていると、一部では反論もあったようだが、戦争でごく普通の若者が犠牲になるというのは、どこの国でも起こり得ることだ。ラストシーン。残された仲間たちは夕食の準備をしている。誰かがアメリカ国家を口ずさむ。やがてそれは合唱になる。歌い終わり、マイケルが言う。
「ニックへ」
画面は静止画になり、エンディングの「Cavatina」が静かに流れる。実はこの「Cavatina」。サントラで言えば「Cavatina Reprise」というタイトルが正しく、ストリングスとフルート・パートも加わったバージョンとなっている。この曲、シンプルに聴こえて演奏は恐ろしく難しい。テーマ部分を爪弾きながらのアルペジオは動画を見ればわかるとおり、両方のバランスがきれいに演奏されたものは非常に少ない。さすがジョン・ウィリアムスだ。映画本編を観て感情が揺れ動かされた後、そっと爪弾かれるギターの音色が琴線に触れ、自然と涙が溢れるのである。


Nakajima

自由気ままに雑多なことを書きなぐっていきます。根底にあるのは「愛と音楽」。世の愛すべき事象にスポットを当て、音楽好きに共感してもらえる記事を執筆していきます。プライベートでは、週末となればドラムを叩き、ライブや映画、展覧会などを楽しむアクティブ派。

 
 
 

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