無料の現代的トラッカーSunVoxの解説となります。今回はトラッカーらしい癖のあるパターン・エディタについてです。トラッカーならではの強力な部分で、知れば知るほどその柔軟性に驚くと思います。ただし多くは見通しの悪い16進数制御となり、プログラム経験がない人にとっては取っつきにくい印象になると思います。
パターンエディタの見方

縦軸は時間で上から処理されて行きます。1行は1ラインと呼ばれていて、デフォルトでは1/16分音符となっています。デフォルトでは32ラインですが、任意の値に調整可能です。上限は非現実的な値まで上げられるようです。実際にはフレーズ単位など、なるべく短かい方が管理編集する上でも楽できると思います。
横軸はSunVoxではトラックと呼んでいます。SunVox以外のトラッカーでは、チャンネルと呼ぶこともあります。またトラック数は、1~32まで調整可能ですが、これも最小限がよいと思います。幸いSunVoxは複数パターンの同時再生が可能なので、トラック数を減らせるトラッカーです。例えば各パターンのトラック数を最小にして、そのパターンを組み合わせてアレンジするという具合です。
トラッカーは、1トラックに複数の楽器(音源)を入れることが可能です。DAWではなかなか許されないことですが、初期のトラッカーは4トラックの中でやりくりしていたので、このような仕様になっています。ただし、見やすさや編集のしやすさを考えると、トラックごとに整理した方が現代的かもしれません。
逆に和音を演奏する場合は、1トラックはモノフォニックになるので、4和音にしたい場合は4トラック必要になります。上記画像はCM7、FM7を2拍ごとに繰り返しているパターンですが、セブンスコードなので4トラック使用しています。この古典的な仕様は不自由に感じると思いますが、伝統として受け入れる必要があります。
各トラックにあるNNVVMMCCEEXXYYの意味は以下のようになっています。

音程NNはC3のように記述するので、人によっては抵抗があるかもしれません。またド=C、ミ=E、ソ=G……というように、すべてが頭の中で結びついてる必要があります。音の長さは特に指定はなく、次の指示が来るまで鳴り続けます。
CC(Controller)、EE(Effect)とそのパラメータであるXXYYは、最もトラッカーらしい部分です。ピッチコントロールやポルタメント、微妙なズレなど、演奏に関わる基本的なことから、モジュールのパラメータの制御など幅広く扱います。DAWのオートメーションのような機能とも言えます。また、すべて16進数による制御となるので、その数字だけで何が起きているかは分かりません。自分で作成したデータでさえ、数か月後には何をやっているのか分からなかったりします。ユーザーに優しくないトラッカーらしい部分です。
CC(コントローラー)とEE(エフェクト)
CCはモジュール内のパラメータをコントロールすることができます。DAWのオートメーションに近い機能ですが、すべて数値制御なので取っつきにくさはあります。
EEは、伝統的トラッカー部分と言えます。EEはPatternメニューからもSet effectからアクセスできます。下記のようにそれなりの数が用意されています。ひとつひとつ試して動作確認する必要があり、その使い勝手も含めてハードルは高めです。ここで出来ることのいくつかは、他機能で代用することもできますが、緻密に思い通りに操作したい場合にEEは強力です。

ここではトラッカーが苦手とする厄介な問題の解決方法をひとつ紹介したいと思います。
3連系をやりたいとき
以下の譜面のような3連符を扱うことは多いと思います。これをSunVoxで実現する場合、デフォルト設定で一時的に3連符にする方法と、プロジェクト設定を3連符中心にする方法があります。

一時的に3連符を扱いたい
個人的にはエフェクトEE 1Dのディレイを使って3連符を実現しています。1Dディレイは、ティック単位で鳴らすタイミングをずらすことが出来ます。初期設定では4分音符 = 24 ticksなので、3で割ることができます。上記のような3連符は8 ticksとなります。これらを踏まえて、下のように打ち込んで譜面の3連符を実現します。ディレイの値で混乱するかもしれないので補足程度にティックの関係を入れておきました。

楽曲全体で3連符を基本に設定したい
ジャズのように基本3連系にしたい場合は、設定から変えた方がよいかもしれません。デフォルトだとラインの強調表示も3連に向いていません。そこで、ティックとライン数などを使って調整し、4/4で3連の1小節分にしてみます。まずはメインメニューからProject propertiesを開いて以下のように設定します。

TPLはBPMとの辻褄を合わせる必要があります。24ティックが4分音符に相当するので、24/3=8となり、TPLを8に設定します。これで3行分が4分音符となります。
Time gridは行の強調表示で音には直接関係ありませんが、見やすくするためには重要な要素です。ここでは3連にしたいので3とし、これで3行ごとに強調表示されます。またTime grid2は、Time gridを基準とした、もう一つの強調表示です。通常小節区切りで使うものなので、ここではデフォルトのまま4にしています。
またPattern propertiesからNumber of lines を12にすれば、1小節分となります。これで4/4で3連の1小節分となり、BPMもちゃんと4分音符分となりました。五線譜の内容を打ち込むと以下のようになります。音は上記と全く同じです。

まとめ
ここでは3連の実現方法だけを紹介しましたが、パターンエディター部は奥が深く、アイデア次第で驚くような使い方もできます。特にCC、EEを駆使することでDAWでは難しいことも実現できたりします。
SunVoxの紹介は今回で終了です。SunVoxはパソコンだけで成立する音楽制作環境なので、外出先で音楽的なことをちょっと試すときなどにも便利です。環境がこぢんまりとしている利点はとても大きいと思います。
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