-
2013/04/27
Pushing the limits(限界を超えて)
RODE社のチームメンバーと話しをして、気が付いたことは、エンジニア達が今できることは何か、その限界に挑戦することをまず、何よりも大切にしているという点です。
一つの例として、彼らの最近の自慢であり、楽しみもなっているものとして塗装技術があります。それはエンクロージャーに2ミクロンの厚さで加工できる塗装方法です。その塗装方法についてFreedman氏は次の様に語っています。
「黒色で、強度は抜群、長持ちし、引っ掻かれることもない。さらに見た目が良くて、はがれない。そんな感じのものにしたかった。そこで見つけたのが、軍で使用されていたマシンだった。だけど使い方がとにかく難しい。だからロボットがスプレーしてくれるような、オーブン機能の付いたマシンを特注で作ってもらうことにした。」
かつて軍で銃の塗装にも使用されていたその塗料は、市場に出回っている商品ではありません。スプレーする前に撹拌しておく必要がある特殊なものが使われているとのことです。また、ヘッドセットのケーブル強度を確保する為にも、Kevlar社の繊維を含浸したケーブルのみを使用し、さらにその上質なケーブルの素材を傷つけずに切断するためのマシンとして、髪の毛のトリミングまで繊細に行えるという、日本製のマシンを導入しています。Freedman氏は「僕たちが取り組んできた事で、妥協した事はない。それは近日発売予定のヘッドセットマイクについても同様。ステンレススチール素材のケーブルを使うのだが、それを接着剤で付ける代わりに、レーザー溶接機を購入し、もっと強力で、取れないような加工を施したんだ。」と述べています。
RODE社が使用している製造機器のメンテナンスについても同様に、それらの機器が本来持つ能力を最大限に発揮できるよう、定期的に精密な点検が行われています。これについてもFreedman氏は
「他の工場では、マシンを稼働させる速度をある一定の速度に設定して使用していると思うけど、僕たちは更に経済的で効果的なRPM値で稼働できないか、まず自分たちでテストしてから使うんだ。」
と述べています。このような過程があるからこそ、個々の機器は常に最適な条件に整備され、マイクに使用されているミクロン単位の精密パーツも高い精度で製造することができるのです。さらにFreedman氏は続けます。
「そこで測定機を購入して、実際の数値を比較検証する必要も生じたのです。何故なら、自分達でパーツを製造し、思うような結果は得ていたものの、細かい部分ではその違いを見極めることができなかったからです。」
"限界に挑戦する"その取り組みは、商品開発にも大きく影響しています。取材班が、RODE社でデザイン&新商品開発部門責任者を務めるPeter Cooper氏に、新商品を開発してからリリースするまでのタイミングについて訊ねたところ、彼はこう答えました。
「市場のニーズだけが、新商品を研究開発する上でのモチベーションになるわけではない。時には開発中の技術が通用するか否か、それを試す目的で、いわゆる"プロトタイプ"としてリリースされることもある。」
その"プロトタイプ"は、例えば将来的にニーズがあると予想される商品や、同時期に発売される商品に対する効果や負担がどの程度のものか、それらを測るうえでも役立つのです。「そこから、最初のコンセプトを発展させ、ひらめきを加えたりしながら、様々な過程を経て進んでいく。そしてオリジナルのデザインを基にして、そこから継続的に創作を続ける。何度もテストを繰り返し行い、進んでいる方向が間違っていないか、僕たちが最初に思い描いた、"作りたいもの"がしっかりそこに反映されているか、確かめながら作っていく。僕らが取り組んでいる事はかなり"熱い"から、時には脱線することもある。」
Cooper氏は更に続けて語りました。「一度世に出た商品は、誰にとってもそんなに面白いものではない。だからもっと高いところに手を伸ばしてみようとする、そうすると結果的にかなり挑戦的なものになるんだ」
商品を開発していく過程は、オーソドックスなものです。試作モデルを作る上で、できる事はなるべく自分たちの工場で行い、試作品用としてすぐに調達が必要なパーツ類は海外の工場に依頼します。もし、自社で対応できない新しい技術が必要なときには、サードパーティーのものを活用するのです。試作モデルがもう少し具現化してくると、フィールド・テスト、つまり実際にミュージシャンやレコーディング・エンジニアに使用してもらい、感想や意見をもらう段階に入ります。最終段階に入ると、開発チームがもう一度商品の見直しを行い、更に生産性を上げることはできないか、環境問題にも配慮がされているか、その他パッケージの問題や、材料、フィニッシュはどうか、などの最終チェックに入ります。また、それと並行してRODE Microphoneのバーチャル・シミュレーションを活用し、音響的、機械的な検証を行っていきます。
【将来の方向性】
RODE Microphoneが現在、音響機器の市場をリードしているのは、すべてを自分達で行うことによって、商品の特許を守るとともに、専門知識の保持、さらには非常にスピーディーな開発戦略を実現しているからです。
Peter Cooper氏によると、マイクの寿命が平均10年~20年だということは、その間、幾度となく、他メーカーから同類の競合商品が発売される機会があるということを意味しています。
「特許の問題を回避するために僕たちが取り組んでいる事は、ブロードキャスティング用マイク、カメラマイクなど、僕たちが得意分野とする市場のニッチな部分を見つけて、それを中心に改善、継続することである」
「大切なことは、商品開発にさらに重点を置くこと、そして作業スピードをさらにアップさせることで、コピー商品が流通する隙さえも与えないということ。僕らは新商品の開発をとても早いペースで行うノウハウを持っている。偽造品に対して合法的に守るのが戦略だ。」
デジタルビデオ、ホームスタジオやレコーディング用マイクはもちろんのこと、RODE社は、最近の映画製作者が使用する大型センサーを搭載したデジタルビデオカメラ用のマイクなど映像分野にも力を入れています。Peter Cooper氏は
「RODE社は今でも、次にくる大きなトレンドを追い求めているが、映画・TVで使われる映像用のカメラマイクの追究も続けていく。また、集積チップのベースとなる フラッシュメモリーのエリアのノウハウも研究中」と述べています。
しかし、今回の新しい技術の導入に関してはかなり慎重な様子です。2012年1月には、簡単な発売告知の後、マイクロSDHCカードに録音できるVideoMic HD(コンデンサー・スーパー・カーディオイド・ショットガン・マイクロホン)がプレスリリースされましたが、この宣伝記事が発行された時点でも商品は完成していませんでした。VideoMic HDの件について、Copper氏は次の様に説明しています。
「私たちはその製品を特徴付けるセットを考え、改良し続けています。さらに、あらゆる問題点を見つけては、非常に敏感に反応し、逐一立ち止まっては考え、確認しながら製品の品質向上に向けて動いています。」
Electronics News誌のインタビュー後、RODE社は、専用のアプリケーションを介して高音質の録音が可能なアップル社のiPhone/iPadデバイス用のステレオマイク(独自のアナログ-デジタルの変換回路を搭載)を開発し、モバイルの分野に参入しました。
オーディオ機器に関する高い技術を確立した今でも、Peter Freedman氏は、顧客、そして彼らが求める芸術性が、自らのビジネスの根底にあると主張しています。
「それはまさにに音楽、アート、そしてエンジニアリング(技術開発)である」
「これらすべてのテクノロジー、マーケティング、コミュニケーションの根本はすべて"人"であり、音楽、芸術を生み出すのも人なんだ。それが何よりエキサイティングなことだ」と熱く語りました。