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誌上レポート AKAI / MPC2500

Electronic Musician 誌
by Marty Cutler/ 2006 8月

"伝統を誇るサンプリングマシン・シリーズは新たなトリックを手に入れた。"
 
AKAI MPC2500 数多の一体型グルーブマシンの中でも、AKAIのMusic Production Center(MPC)シリーズは、最も長い間その人気を保ち続けてきた機種です。多くのHip-Hopミュージシャンがソフトウェアの使用へ移行していくなか、それでもMPCは常にトップの位置を保持してきました。MPCが激しい競争の中、人気を保ち続ける理由は、一つにはソリッドなオールインワン・ドラムマシン型インターフェースの形態であることが上げられます。後継として発表されるモデルは、より拡張された接続性、ストレージ、RAM容量など様々な進化を続けながら、多くは先行機の馴染みのあるデザインを踏襲してきました。MPCの成功のもう一つの要因は、特に高く称賛されているその感触にあります。それは数え切れないほどのソフトウェア・シーケンサーのグルーブ・クオンタイズ・アルゴリズムに影響を与えてきました。
AKAIが発表したシリーズ最新作がMPC2500です。MPC2500は昨今のグルーブオリエンテッドなソフトウェア・サンプラーの成果をうまく取り込んでいます。特に、ループをより小さな要素に分けてそのテンポ、雰囲気を変える機能は特筆すべきものです。MPC2500の外見は1988年に発表されたMPC60とほんの少ししか変わっておらず、古い機種のユーザーやドラムマシンスタイルでパターンベースのシーケンシングが好きなユーザーでも、容易に新しい機能に対応することができます 。
     
Hit and Run

MPC2500は重量感があり、まるで小さな戦車のようです。レビュー用の製品には2GBまで搭載可能なCompact Flashカードスロット、16MBコンパクトフラッシュカードなど、作品を保存するのに必要なものが付属していました。16MBのRAMは128MBまで増設することが出来ます。リアパネルのUSB端子を通じて、サンプリングしたデータをパソコンに保存、パソコンからのデータ読み込み、MPCのオペレーティングシステムのアップデートも可能です。
MPCの操作系の中枢といえるのが、1.25インチ四方のフォーム・ラバー製で、ヘビーデューティーなルックスを持つ16個のトリガーパッドと、チルトアングル仕様の240x64ピクセルLCDです。パッドのサイズが十分にあるので、手先があまり器用ではないプログラマーでも簡単にグルーブを作る事ができ、それでいてレスポンスも非常に良いものになっています。もしレスポンスに満足がいかないのであれば、各パッドのベロシティーカーブを変更することも出来ます。(キーボードで試してみて下さい)。各パッドは4つのベロシティーレイヤーの数だけサンプルを再生します。ベロシティーを使ってサンプルを変調させることも出来ますが、本機に搭載されているQ-Linkという機能も同じ目的で使用することが出来ます。更に各パッドの音は、メインのステレオペア出力に加えて、8つのアナログ出力の一つにアサインさせることも出来ます。
パッドの左に位置しているQ-Linkコントロールは1ペアのノブと2つのフェーダーからなります。各Q-linkコントロールはフィルター・フリーケンシーやレゾナンスといったサウンドシェイピングの各機能にアサインすることが出来、再生時の音をよりリアルにするためにコントロールデータをシーケンサー内へ記録することも出来ます。加えて、各Q-Linkには”After”ボタンという意味あり気な名前の機能が搭載されています。このボタンにより、予め録音されたデータを無効にして再生時のサウンドをコントロールすることが出来ます。これはDJには便利な機能です。
またNote Repeatボタンを使うと、選択した解像度を元にロールを作ることが出来ます。パッドはアフタータッチには対応していませんが、圧力を感じ取ることができ、Note Repeat ボタンと一緒に使うと、様々な圧力によってロールのダイナミクスを継続的に変えていくことが出来ます。パッドの圧力によってサンプルレイヤーを調整することは出来ませんが、押す圧力を変える事によって、少しリアルさを出したり、ロールにダイナミクスを与えることが出来ます。
ロールの音解像度は、LCDメニューの下にある、6つのファンクション・ボタンを使って設定することが出来ます。メニューと関連するボタンの機能は操作状況によって変化します。例えば、Note Repeatメニューでは、8分音符から32分3連符までの値を選択することが出来ます。メインウィンドウではタイムコレクション(クオンタイズ値)、クリック、トラック選択、ミュート、ソロなどの各設定を行うことが出来ます。トップパネルの右側にあるノブはレコーディング入力ゲインとモニターレベルを調整します。Input Thruボタンは外部オーディオをMPC2500のフィルター、エフェクトを通して加工する際に使用します。
MPC2500はリアパネルにコアキシャルS/PDIF入出力を搭載していますが、フィルターやエフェクトはアナログ信号パスにのみかけることが出来ます。リアパネルには更に2系統のMIDI IN、4系統のMIDI OUT、アナログ入出力、USBポートを搭載しています。フロントパネルにはコンパクトフラッシュスロット、フットスイッチ端子2系統、ステレオヘッドフォン出力がついています。
 もしあなたがMPC2500を音楽製作の中心として考えているか、スタンドアローンの楽器として使おうと計画しているのであれば、オプションのCD-RWと内蔵ハードディスクを加えることを考えるべきでしょう。レビュー用に受け取ったものはCD-RWオプションがついておらず、追加機能のセットをテストすることが出来ませんでした。MPC2500では個々のWAVファイルをオーディオCDに書き込むことが出来ますが、ソングやシーケンスをオーディオデータとして書き込むことは出来ません。CDに書き込むためには、オペレーションシステムをバージョン1.1にアップグレードする必要があります。ただ、もしあなたのパソコンがCDを焼くことができるものであれば、MPCの内蔵USB接続があるので、CDドライブを買うのは冗長に思えるかもしれません。同様に、ファイルを保存しておくコンピュータがあれば、USBリンクを使うことによって、内蔵ハードディスクも必要なくなります。

Bank Shot

REC GAIN/MAIN VOLUMEノブの下にある8つのボタンの内、上段の4つはパッド・バンクA~Dとして機能するので、プログラムできるパッドの数は合計64となります。下段左側二つのボタンはベロシティーを最大値に固定する(FULL LEVELボタン)、ベロシティーを16のレベルにクオンタイズする(16LEVELSボタン)もので、ダイナミクスをつけることが難しいビギナーにうれしい機能です。NEXT SEQボタンはシーケンスのメニューを呼び出す為に使用し、TRACK MUTEボタンはトラックとそこに含まれるデータを表示するページを呼び出し、関連付けられたパッドをタップすることによってトラックをミュートすることが出来ます。1つの機能ボタンで、トラックをソロにすることもミュートに切り替えることもできます。選択されたトラックはメニューディスプレイ上でハイライトされます。64のトラックがどのバンクの、どのパッドにあるか記憶することはとても困難であることを考えると、ビジュアルで確認できるのは非常に便利です。
データ入力セクションでは、データホイールを使って値を変更したり、次のソングに移動することが出来ますが、ホイールの左にあるテンキーを使って直接値を入力することも、ホイール下のプラス、マイナスボタンで段階的に数値を変更することも出来ます。その下に見える2軸カーソルで変更したいパラメーターを選択します。カーソルの左にあるボタン(TAP TEMPO)を4部音符でタップすると、簡単にテンポを変えることが出来ます。MODEボタンはデータの保存や読み込み、ループの設定、サンプルの録音やプログラムなど、パッドの追加機能を利用する際に使用、同様にSHIFTボタンはファイル名をつける際のテキスト文字の入力時など、操作状況によって異なる機能を持ちます。どんなに細かな設定をしていてもMAINボタンを押すと、すぐにトップページに戻ることが出来ます。人気の高いUNDOボタンも健在です。その下に見える2列のボタンもお馴染みとなった録音、レコーディング時のトランスポートコントロールに使用します。


Simple Sample

MPC2500は16bit, 44.1kHzのオーディオをWAVフォーマットでのみ録音・再生します。これまでのMPCシリーズでサポートされていたPGM、SEQ、SNDファイルのような独自に開発されたデータファイルの使用は抑えられ、MPC1000まで遡ったものだけになっています。サンプリングの方法はシンプルなもので、AKAI黎明期のサンプリングマシンから変わらないものとなっています。サンプリングを始めるには、MODEボタンと、RECORDというラベルのあるパッドを押します。アナログ入力、デジタル入力からサンプルを録ることも出来ますし、MPCのメイン出力を選択し、エフェクトやフィルターを通してリサンプリングすることも出来ます。リサンプリングは内部で行われるのに対し、アナログ領域に留まっているのは驚くべきことです。MPC2500自体のエフェクトは充分なものですが、平凡であるともいえるでしょう。最も風変わりなものがディストーションとビットリダクション・アルゴリズムです。最も音の良いエフェクトはフィルターだと思います。
 水平に並んだレベルメーターは、視覚的なフィードバックを与えてくれ、スレッショルドやサンプルタイムを設定するのに一役買っています。RECORDボタンを押すと、サンプリングを始めるのに充分なレベルになるまで待機状態となりますが、STARTボタンを押すと、マニュアルでサンプルを開始することが出来ます。

Attention, Choppers

新しく追加されたChopShop機能はPROPELLERHEAD/ReCycleやSPECTRASONICS/StylusRMX等のソフトウェアでおなじみの自動でサンプルを分割できる機能です。トリム画面でFunctionボタンを押すだけでサンプルを分割できます。分割方法は2~64等分、又はアタック部分の強弱から自動的にフレーズ検出する機能を使う事もできます。各パラメーターは1~100までの設定ができます。ドラムやパーカッションには初期設定で十分ですが、オルガンのようなアタックの弱い音源の場合は一般的に分割ポイントの検出が困難な為、設定の調整が必要です。
自動的に分けられたサンプルを再生する方法は2通りあります。パッチフレーズとスライスサンプルです。前者はループ全体を1つのパッドにアサインし、そのループは任意のテンポに合わせられます。後者は分けられた各フレーズをそれぞれ別のパッドにアサインし、組み合わせを変えて、エフェクト等を加える事によって新しいパターンを作ることができます。
MPC2500に搭載されているテンポ検出機能は性能が高く、私が入力した幾つかのドラムパターン全てを正確に読み取りました。音源ファイルの添付が検出できれば、その後で幾つかのタイムストレッチ・アルゴリズムを使用することができます。タイムストレッチは+/-10bpm程度ならば問題ありませんが、100bpmのドラムパターンを120bpmに変えた場合はキックドラムのパンチは失われていました。

MIDI Monster

シーケンサーとしてMPC2500は表現力もあり、パターンベースのソング作成は非常に便利なものです。一つのトラックには、どのパッドからのデータも設定することができ、またシーケンスは最大999小節と64のトラックを設定可能です。それでも本格的な作曲をするのに充分ではないのであれば、1つのソングを作成するのに250のシーケンスをリンクさせることができます。(RAMがそれを許せば、の話ですが)20のソングをリンクさせて超大作を作り上げることも可能です。
MPC2500は外部機器のためのMIDIパッドコントローラーとしても秀逸なものです。4つの独立したMIDI出力により、最大64までの外部MIDIチャンネルをコントロールすることが出来ます。MIDI Thruの設定は今まで見た中でも最もフレキシブルなものです。入力されたデータをそのまま伝えるのに、単体、ペア、もしくは全てのポートを指定することができるので、ライブパフォーマンス時コンピューターなしでも、とても利便性の高いMIDIハブとしてMPC2500を使うことができます。2つのMIDI入力ポートは独立したものではありませんが、16以上のMIDI入力チャンネルはおそらく必要ないでしょう。
すべてのパッドを異なるMIDIノートにアサインすることが出来ます。LCD上にはノートナンバー、ピッチと共に、そのノートに価するGENERAL MIDIのドラム音が表示されます。多くのメーカーがドラムにGM規格を採用していることを考えると、この機能は外部ハードウェアをコントロールするのに大変便利な機能だといえます。
MIDIの録音解像度は96ppqnで、他の最先端機器に比べると見劣りするものではあります。クオンタイズのオプションも、8分音符から32分3連符の範囲内で、スイング値(50-75に限られていますが)以外にパーセンテージの設定は出来ず、余分なものを取り除いたものになっています。入力時にデータをクオンタイズすることも、録音後に設定することも可能です。

Groove Analyst

MPC2500を使った録音、シーケンス作成、プレイバックは、最初の内は非常に理解しやすいのですが、パッドで選択していくページシステムは、徐々に難解なものになっていきます。細かく編集を続けていくとマニュアルを近くにおいておかずには先に進めなくなってしまうかもしれません。
 MPC2500よりはるかに安いハード/ソフトのグルーブマシンでも、プラクティス用の常套手段として豊富なスタートアップ・サンプルライブラリが用意されていますが、MPC2500のセットは16MBコンパクトフラッシュに保存されたちょっとしたバンクのみで、残念でした。収録されたサウンド、ループはとても使いやすいものでしたが、特筆して素晴らしいものでもありませんでした。
 機能はとても魅力的ですが、その価格は少し高すぎるかもしれません。この価格帯だとより高いサンプリングレートとビットデプス、もう1ランク上のRAMと内臓ハードディスクにCD-RWドライブを標準装備として期待してしまいます。とは言え、MPCシリーズはHip-Hopの世界では業界スタンダードになっています。あなたがMPCのブランドネームに捕らわれているだけなのであれば、同じ金額で、RAMが充分にあって快適な速度で使えるノートPC、立派なオーディオインターフェース、シーケンスソフト、サンプルコレクション、そしてパッドコントローラー(AKAIも秀逸なモデルを発表しています)まで揃えることが出来るかもしれないことを念頭においておくべきでしょう。

Mixed Messages

PCベースのシーケンサーと比べると、AKAI MPC2500で曲作りをすることはチャレンジかもしれませんが、やりがいのある楽しい作業です。MPCスタイルの曲作りに慣れた人は簡単にMPC2500に乗り換えることが出来ると思います。外部機器用のパッドスタイル・コントローラーとしては群を抜いていますが、パッドが感圧タイプであるのに、アフタータッチを送れないのは惜しい気がします。同様に、MPCのクラシックな雰囲気に要求されるものと照らし合わせて見ると、MIDIイベントの解像度が低く困難なものになってしまっているとも言えます。これらの弱点に関してはAKAIが将来のアップデートや、次世代機で克服してくれるものと思います。



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