本気の小口径ドラムキット作る
── まず、BONNEY DRUMのコンセプトを教えてください。
落合小型で音の良いドラムを作ることです。昔のミニクーパーのような、小さく可愛くキュンと母性本能くすぐるエレガントなドラムです。また、16インチのバスドラムを特別小さいとは感じなかったのもあります。“小さいドラム=簡易的で安価なもの”が多いので、本気で使える小口径のドラムキットを作ろうと思いました。BONNEY DRUMのメンバーは3人なのですが、以前から40歳になったら好きなことをやろうと話していたので、とても楽しみながらやっています。
── ドラム作りで苦労したことはありますか?
落合特にありません。大変なこともありますが、好きでやっているというのもありますから。敢えて言うのであれば、ドラムを作ろうと決めてから海外の多くの楽器、パーツ工場、輸入木材会社、印刷、縫製会社などを数年掛けて回り、勉強したことです。その道中に危険なことにもたくさん遭遇したのですが、それもよい思い出ですね。
── どのようにして工場を探したのでしょうか?
落合中国、台湾、韓国、タイ、スリランカ、アメリカ、ヨーロッパなど海外に多くの友人がいるので、世界中の工場を探し、通訳として一緒に工場に行ってもらえたのです。世界中の友達の協力があってBONNY DRUMが生まれました。そして何よりも嬉しいのは、音楽を職業としているミュージシャンの方々と一緒に仕事ができることです。
── 箱根細工をモチーフにしたインレイは、箱根が落合さんの地元だからでしょうか?
落合どこの国でも「母国愛」があるように、私もここ小田原と日本を愛しています。なので、小田原と箱根のシンボルともいえる箱根細工を取り入れました。神奈川西部には職人も多く、わっぱめしの“わっぱ”や樽などの工芸品の生産も盛んで、小さい頃から箱根細工を見ながら育ってきたというのもあります。
── インレイは落合さん自身のデザインですか?
落合そうです。ドラムやサウンド、全体のデザインはもちろん、BONNEY DRUMのロゴデザインから、撮影、カタログまで1人でやっています。
13歳から燃え続ける物づくりへのこだわり
── 落合さん自身ドラマーでもありますが、 BONNEY DRUMを始める前、改造等されていたのでしょうか?
落合13歳の時、私のドラムの師匠が使っていたロジャースの真っ白なカバリングのドラムキットに一目惚れし、どうしても欲しくなり、あるドラムメーカーに電話をしてカバリングだけ売ってもらえないか頼んでみました。もちろん売ってもらえませんでしたが、取扱いのあるアメリカの店の住所を教えてくれたのです。姉に英語の手紙の書き方を教わってエアメールを送り、1年かけてようやく入手することができました。当時はカバリングの貼り方もわからず、両面テープで粗末にシェルに張り付けていたのですが、これが楽しくて楽しくて!ドラムメーカーの担当者さんは私に勉強させるつもりだったのでしょう、その心遣いは思い出すたびに今でも私の“物づくり魂”に火をつけます。ここが僕の原点ですね。
PLUM/BERRYシリーズを経て完成したJAMシリーズ
── JAMシリーズはどのようにして出来上がったのでしょうか?
落合最初はPLUMというシリーズを発売しました。正直日本人の厳しい目から見ると高品質なレベルとは言えないモデルでしたが、皮肉にも凄く音が良いのです。そこから学んだのは、最高級の木材や接着剤、プレスマシンを使って、正確に精密に作っても決して音が良くなるわけではないということです。 その後JAMシリーズの原型となるBERRYシリーズを発売し、これはこれで満足のいくものができあがりましたが、さらに良いものをという気持ちが湧いてきました。また、当時は木材輸入業者、鉄を作る業者など海外6社と提携し、それぞれを輸入して作っていましたが、作れば作るほど赤字という状態だったのです。品質を妥協せず、商売として成立させるため、台湾の3社に絞って完成したのが現在のJAMシリーズです。
── 最初のシリーズが完成した時点で、いきなり楽器屋さんに売り込んだのでしょうか?
落合いや、当時は趣味の延長でやっていたので、営業に行くのはもっての外と、口コミと友達が働いている楽器店のみで売っていました。ですが、今もまだ営業らしいことはできておらず、作ることで精いっぱいなのです。
── JAMシリーズは細部にまでこだわりが感じられますが、特にこだわった部分はどこですか?
落合デザインと品質、そして楽器として最も大切なサウンドです。最近流行っている薄いシェルで形成された明るいサウンドのドラムと比べると、BONNEY DRUMはその逆で、厚めのシェルとフープのバランス、独自のエッジ加工により、しっとりして太くて丸い、もっちりした男らしいサウンドをしています。これがとても音楽的だと思うのです。大量生産をせず、時代に左右されないシンプルな楽器を、必要とされるだけ淡々と作りたいと考えています。
── JAMシリーズの反響はいかがですか?
落合おかげさまでご好評いただいております。品質がよく塗装も綺麗で、こだわりを感じるとユーザ様によく言って頂けるので、とてもありがたいです。
── 確かに玄人好みなイメージはありますね。
落合何とも言えない愛くるしさがあるので、悩んでいても一目現物を見た方は、その場でご購入し、お家に連れて帰られます(笑)。特に12インチのスネアはご好評をいただいており、最初生産分はあっという間に完売、大急ぎで追加生産した分も残りわずかとなってしまいました。
フィニッシュの美しさに定評があるUV塗装
── BONNEY DRUMといえば塗装の美しさで定評がありますが、特に気をつけていることはありますか?
一寸木木は塗料を吸い込むので、木目が消えるまで何度も塗装する必要があります。少なくとも10回以上、何日もかけて“塗っては擦って”を繰り返します。横着して早めにクリアを吹いてしまうと木が痩せてしまい、仕上がりが悪くなります。塗装が厚くならないことも大切です。
水野特に黒は難しいですね。ごまかしが効かないですから。
一寸木バフがけもシングルではムラが出てしまうので、ダブルアクションの機械を併用し、4種類ほどの段階に分けて使っています。
水野塗料もいろいろ試しました。
── 製品で使われているUV塗装はどのようにされているのですか?
落合ドラムキット1台で約1リットルの塗料を使用するのですが、通常の塗料に比べてUV塗装自体が発展途上ということもあり高価です。それを大量に仕入れてコストを抑えています。UV塗装の特徴は鏡のような反射率と、水面のような濁りのない見た目の綺麗さです。
水野UVの塗膜はとても固くなり、黄色く変色してしまうことが少なく、耐久性も高いので劣化が著しく少なくなります。
落合UV塗装は塗っただけではベトベトで固まらないので、専用の紫外線ルームでコンベアに吊るされ、60分程かけて硬化させます。予備乾燥で数日乾しバフで仕上げます。
── UV塗装はどんなものに使用されることが多いのでしょうか?
落合高級家具ですね。近年は試験的に楽器にも使われ始めましたが、サウンドへの影響については徐々に各社の独自データが出てきた段階で、まだ歴史の浅い技術なんです。弊社で独自に調べた結果では、低音に優れ、2年位でサウンドが落ち着き、4~5年で理想的な鳴りに変化してきます。塗膜を透かして見ると、木目が少し浮いてくる頃、だいたい4~5年でかなり良くなりますね。塗料が固くて長持ちするので、経年劣化も遅めで、そういう意味では保護も含め長く使用できるドラムになると思います。生産品は台湾のUV塗装工場で塗装しますが、その中でも塗装技術が優れている職人に専任でお願いしています。UV塗装は日本国内ではできませんから。
── BONNEY DRUMと言えばコンパクトキットというイメージがありますが、今後増やしていく予定はありますか?
落合まだ公表できませんが、新商品の予定があり、すでに試作品も完成しています。楽しみにしていてください。
PHOTO
工房の中でのインタビュー風景。左から水野氏、落合氏、一寸木氏。
BONNEY DRUM JAPAN工房兼ショールーム。ショールームには試打用の防音室も完備されているので、音を確かめてから購入できる。
実際にドラムに使用されている木組インレイ。箱根細工をモチーフとしたその造形からは、地元への愛が感じられる。
落合氏が手に持っているものは、エッジ加工に必要な道具。特注で作ったものだ。これを機械の中心にはめて加工していくのだという。
これはシェルのエッジを均等にする機械。このようにシェルを当てて削っていく。
木製バスドラムのリフターは通常のかませるタイプと異なり、オープンなサウンドになるとのこと。ちなみに商品名は生産者の名前をとって「カンベ」。
※JAMシリーズに付属するリフターは、一般的なリフターが付属しています。