ワイヤレスマイクシステムでは、ほとんどの機種では何らかの電波を用いて音声を伝送します。使用する電波の周波数によってA帯、B帯、C帯、2.4GHz帯などがあり、音響向け製品において免許不要で使用できる製品はB帯または2.4GHz帯を使用した製品になります。
B帯と2.4GHz帯の比較では、業務用途においてはB帯が有利とされます。この記事ではその理由や、B帯ワイヤレスを安定運用する方法、加えてSennheiser B帯ワイヤレス製品のアンテナオプションの組み方について説明しています。
Sennheiserでは小規模から大規模まで対応するプロフェッショナル向け、アマチュア・小規模PA向けなど様々なワイヤレスシステムを発売していますが、それぞれのシリーズで使用する電波が異なっています。
A帯は使用にあたって免許が必要なため、無免許の場合は使用できません。小〜中規模PAやミュージシャンなどが使用できるモデルはB帯のevolution wireless G4シリーズ/XS Wirelessシリーズまたは2.4GHz帯を使用するXSW-Dシリーズに限られます。
2.4GHzは誰もがよく知るWi-Fiと同じ帯域を使用するモデルで、ほとんどのモデルでは音声をデジタル変換(変調)したうえで伝送します。
B帯は806.125〜809.750MHzという周波数帯を指し、法令でワイヤレスマイク用に指定された周波数帯を使用しています。
すでにお気づきかもしれませんが、2.4GHz帯最大の懸念は2.4GHz帯が混雑していることです。いまやどの施設でもWi-Fiが縦横無尽に使用され、多くのWi-Fiアクセスポイントが存在することは周知の事実でしょう。
例えば展示会場は非常に多くのWi-Fiアクセスポイントがあり、パソコンの接続すら困難であることを経験した人は多いのではないでしょうか。電波は弱肉強食という性質をもつため、使う人が多くなると信頼性が低下することが避けられません。これは混信と呼ばれています。
これに対しB帯はワイヤレスマイク専用の周波数帯であるため、同じ建物内でB帯を使用するイベントが無い限りは混信する可能性が低いのです。
また、B帯の方が周波数が低いため電波の波長が長く、回析性(まわりこみ)が高いという特徴があります。2.4GHz帯ワイヤレスは遮蔽物が入ると受信感度が急激に悪化します。B帯は遮蔽物があってもある程度までは回析して届いてくれるので、ステージ袖や客席に入ってくる場合でも安心して使用できます。
このような特性をもつため、Sennheiserでは小規模PA・ミュージシャン向けのXSW-Dシリーズでは2.4GHz帯を、大きなステージでの使用が想定されるXS Wireless/ew G4シリーズではB帯と、異なる周波数帯が採用されています。
Sennheiser ew G4シリーズやXSW 1/XSW 2シリーズなどのB帯ワイヤレスを使用するうえで、電波受信の安定性を高める方法をいくつかご紹介します。
B帯は2.4GHz帯に対し電波の回析において優位性がありますが、遮蔽物がない方が受信感度が高くなるのは言うまでもありません。
一方で、トランスミッター(マイク本体)とレシーバーは近すぎても安定性を欠く可能性があり、5m以上離れている方が良いとされています。
ステージの遮蔽物を避けたとしても、出演者や観客など、人間も遮蔽物になりえます。特に出演者が客席に下りるなどのパフォーマンスを展開する場合、位置が低いと観客が遮蔽物になる可能性が高まります。
このような問題に対応するためには、レシーバーの位置を高くすることが有効です。
これら2つの項目をカバーするためには、客席中央のPA席へレシーバーを設置することがお勧めです。PA席はステージより高い位置になることが多いため、これらの条件を満たすことができるのです。
舞台袖に設置した場合、上手または下手のどちらかと距離の差が大きくなりますし、高い位置への設置は難しくなってしまいます。また、レシーバーに表示される受信感度などの情報をPA席で見ることができなくなります。
運用においては、レシーバーに表示される電波の受信感度をリハーサル時にチェックしましょう。以下はエントリーモデルXSW 1シリーズの受信機EM XSW 1-JBですが、緑色のアンテナマークが受信感度を表しています。常時点灯しない場合は受信状況が悪いので、レシーバーの設置方法を改善しましょう。
上位機種のEM XSW 2-JBレシーバー、またはew G4シリーズのレシーバーの場合はさらに細かく、5段階で電波の感度を表示します。リハーサルにおいて予め受信感度が低くなる場所を確認しておき、必要に応じ設置場所を変更すると良いでしょう。
なお、Sennheiser B帯ワイヤレスシステムでは、安定性を高めるための仕組みとして、エントリーモデルのXSW 1シリーズではアンテナ1本を使用するアンテナダイバシティ方式、XSW 2及びew G4シリーズではトゥルーダイバシティ方式が採用されています。
2本のアンテナのうち受信感度が強い信号を使用するのがトゥルーダイバシティ方式。安定性にこだわる場合はXSW 2またはew G4シリーズを使用しましょう。
アンテナの交換が可能なXSW 2/ew G4シリーズにおいては、外付けアンテナなどのアンテナオプションを設けることでさらに安定性を高めることが可能です。
購入時に付属するホイップアンテナを外し、別売りの外付けアンテナを取り付けます。様々な環境に対応できるよう、以下のように豊富なアンテナオプションが揃っています。導入しやすいお勧めの使い方と基礎知識をお伝えします。
モデル名 | 製品種別 |
---|---|
A 1031-U | パッシブアンテナ(無指向性) |
AB 4-DW | アンテナブースター |
EW-D-ASA | アンテナスプリッター(1:4x2) |
GA 3 | ラックマウントキット |
AM 2 | ラックマウント用アンテナマウントケーブル |
まずはパッシブ無指向性アンテナ(A 1031-U)を使ってみましょう。これはレシーバーに購入時に付属するホイップアンテナを大きくしたアンテナで、受信感度を高めることができます。マイクスタンドに取り付けが可能なため、高い位置への設置も容易です。したがって、ステージ脇のスピーカー横など、ステージと客席双方が見渡せる位置にマイクスタンドを用いて設置すると良いでしょう。
パッシブアンテナはBNCケーブルで接続しますが、距離を経ると信号レベルが減衰してしまいます。そのため、アンテナケーブル長が30m以上の場合はアンテナブースター(AB 4-DW)を使用します。ブースターで信号を増幅することにより、遠距離への設置が可能になります。例えば、PA席にレシーバー、ステージ脇にマイクスタンドで無指向性パッシブアンテナを設置というシステムが実現できます。ブースターはレシーバー側ではなく、アンテナのすぐ後ろに接続します。
なお、アンテナブースターは電力供給が必要のため、使用する場合はEW-D ASA分配器が必要です。 XSW 2/ew G4シリーズ受信機本体からはアンテナブースターの電力供給はできません。
距離 | |
---|---|
0〜30m | ブースター不要 |
30m〜90m | ブースター(AB 4-DW) x 1 |
90m以上 | ブースター(AB 4-DW) x 2(直列) |
なお、別途ラインナップされるアクティブアンテナにはブースターが内蔵されており、出力切替も可能です。
アンテナの本数を増やすことができます。本数を増やすことで様々な方向から電波を受けることができるため、安定性を高められます。レシーバーのアンテナ取り付け端子は2つしかありませんので、アンテナ混合/分配器(ASP 212)を用いてアンテナを増設します。ASP 212を使用した分配では1台あたり1本、2系統で使用することで2本のアンテナを増設でき、合計4本のシステムを構築できます。
なお、アンテナブースターへの電源供給の関係から、ASP 212を使用したアンテナ増設は1回のみ可能です。それ以上の増設においては、アンテナ4本までの混合が可能なAC 41を使用します。
レシーバーの台数が多くなる場合は、アンテナの信号を分配して共有しましょう。信号分配にはスプリッター(分配器)を使用します。
前述のASP 212では2台のレシーバーに分配できます。ハーフラックサイズのEW-D-ASAスプリッターを使用すると2本のアンテナを4台のレシーバーに分配できます(または1本のアンテナを8台)。従って、B帯8チャンネル運用であればEW-D-ASAスプリッターが2台必要になります。
舞台袖など明らかに一方向からしか受信しない場合は、指向性アンテナの方が有利になることがあります。指向性アンテナだけでは受信できないエリアが出る可能性があるため、アンテナ4本体制の場合は必要に応じ指向性アンテナを組み合わせてみましょう。
ASP 212スプリッターをコンバイナーとして使用してシステムを組むことができます。
以上のように、B帯ワイヤレスも使い方次第でプロフェッショナル用途にも十分耐えうるワイヤレスシステムになります。まずはセットで購入し、用途にあわせてシステムを増設しながら安定性の高いワイヤレスシステムを構築してみましょう。