オーストラリアのマイクメーカーRODE(ロード)。その価格設定からは想像も出来ないほど、しっかりとした音が録れるということは、いまさら書かなくても皆さんご存じのことかと思います。そんなRODEコンデンサーマイクの主要モデルを聴き比べする機会を得たため、エンジニアの目線での使い分け方をまとめてみました。ご購入いただく際の参考になれば幸いです。
── 自宅でボーカルを録るのに最適なマイクは?
「自宅で歌を録るのに、安くていいマイクを教えて欲しい」と聞かれることが多いため、今回はボーカルで聴き比べを行いました。普段はシャウトを多用するハードコア系のレコーディングはでない限り、ボーカル録音にはコンデンサーマイクを使っています。 今回はRODEのエントリーモデルNT1-Aと、見た目はそっくりで黒いボディのNT1 KIT、真空管を搭載した単一指向性のNTKと、同じく真空管を搭載し指向性の切り替えにも対応したK2を聴き比べてみます。
── NT1-A vs NT1 KIT
まずは、価格的にも購入しやすいNT1-Aと、その後発モデルNT1 KITを聴き比べてみました。NT1-Aは過去に何度か使用したことがあったので、NT1 KITも同じような傾向なのかと思っていたのですが、音質のキャラクターが異なりました。 今回はロックな楽曲の歌録りで試したのですが、結果的にNT1 KITがとても良く合っていました。あとでスペックシートを見て気付いたのですが、リニューアルされたNT1KITの周波数特性は、ロックボーカルのEQ処理によく似ています。もたつく超低域が下がりスッキリとしていて、中域はフラット、派手に聞こえる高域はシェルビングで持ちあがり、ハイエンドで散った高音を絞って輪郭を持たせています。
一方、NT1-Aはハイにややピークがあるように感じましたが、声質が柔らかめなボーカルを少し固めに録りたい場合にはNT1-Aが合うと思います。歌録りだけでなく、このピークはうまく使えば、ボーカル以外でも、ドラムのシンバルやスネア、エレキギターのアンプなどの録音でダイナミックマイクの代わりに使えば、より厚みのある音で録れると思います。その際、拾いすぎてしまった低音をうまくローカットすると音が引き締まるのでぜひ試してみてください。
── NTK vs K2
次にNTKとK2を試しました。こちらの2本はRODEらしいしっかりしたサウンドに、真空管らしい温かみのあるナチュラルな音色がプラスされ、様々な曲調や声質にも対応できるマイクです。 こちらの2本もキャラクターが異なり、指向性の切り替えに対応したK2はナチュラルな音質、単一指向性に固定されたNTKは若干ボーカルの子音が強調され、シャープな印象を持ちました。
K2は電源ユニットのフロントパネルに付いているツマミで単一指向、無指向、双指向の切り替えができ、それぞれ中間のセッティングにも連続可変で設定できるため、指向性の広がりをコントロールできます。そのため、ルーム感のあるサウンドもバランス良く録音できます。もちろん、ボーカル以外でも指向性を生かした雰囲気のある音で録音できるので面白そうです。
一方、指向性が固定されているNTKは、元々がしっかりとした音質なため、そのまま録音しても問題になることはないと思いますが、子音がきつく感じる時は、ダイアフラムの高さを少し上げめにセッティングすると、よりスッキリとしたサウンドになります。
── 楽曲のイメージにあったマイクを選ぶ
レコーディングを写真に例えると、マイクはカメラのレンズみたいな存在です。携帯電話に搭載されたカメラよりも“ちょっといいデジカメ”の方がきれいに撮れるように、ダイナミックマイクよりコンデンサーマイクの方が高い解像度で録ることができます。同様に、ビンテージのレンズを通せば味わいのある写真が撮れるように、ビンテージマイクで録った音も独特な雰囲気のある音になります。楽曲のイメージに合ったマイクを選ぶことで、世界観をより一層高めることができるのです。
言うまでもありませんが、ボーカリストの声質は人それぞれのため、キャラクターに合ったマイクを選ぶ必要があり、高価なマイクよりも安価なマイクの方が合う場合も多々あります。自分の狙ったサウンドに合わせたマイクを選んでみてください。
中野健太郎プロフィール
ワーナーミュージックレコーディングスタジオ、オンエアー麻布スタジオで経験を積み、現在はフリーのエンジニアとして様々なアーティストの録音に参加。自身のレーベル KTR recording+ を立ち上げ、作品をリリースしている。またDTMスクール Sound Scramble では、ProTools、レコーディング、ミキシングの授業も行っている。