
トラッキング用としてデザインされたTL AUDIOの真空管ミキサーM3は様々な用途に対応しますが、その特性を最も活かすには、DAWなど、デジタル・レコーダー用のミキサーとして利用するのが良いでしょう。デジタル・トラックに真空管サウンドの温かみを加えてみたいと思っているレコーディング・エンジニアにとって、M3は夢を実現する機材かもしれません。
M3は音響業界で高い評価を得たTL AUDIO VTC真空管コンソールを元に設計されています。つまりVTCの高い音質をより低価格でコンパクトなボディに再現した商品と言って良いでしょう。 |
M3は8x2マイク/ライン入力で、ハイブリッド真空管/ソリッド・ステート・トポロジーおよびバランス仕様のバスを内蔵しています。2ラックスペース分を占めるアウトボードPSU(冷却ファン付)は、約3.5mのケーブルを経由してミキサーに接続されます。このPSUによって5つの12AX7/ECC83真空管に200Vの電圧が供給されます。

12AX7/ECC83真空管はマイクプリ2chに1本(計4本)とステレオミックスバスに一つ設置されています。12AX7/ECC83は独立した2系統の真空管ステージを備えたデュアル・トライオード真空管のため、2チャンネルのプリアンプで同時に使用することが出来ます。M3の重量は約13kgでわずか10Uですが、テーブルトップで使用しやすいよう、本体はウッド・ラミネート加工が施されています。
M3にはダイレクト・チャンネルOUT(ポスト・フェーダー、+4/-10スイッチ切替可能)が搭載されていますが、テープ・リターン専用の入力端子はありません。バランス仕様フォン・ライン入力はテープ・リターンとして使用可能ですが、マイクプリと同じゲイン・コントロール・セクションを入力します(マイク/ラインスイッチで切替)。また各ライン入力とも共通の位相変換スイッチによって切り替えが可能です。各チャンネルのゲイン・POT幅は+16〜+60dB、0dBラインにセンター・デタントがあります。ドライブLED付きなので、真空管がオーバードライブしているのが一目でわかります。各チャンネルには4バンドEQが付属しており、±15dBのブースト/カット、ハイ(12kHz)/ロー(80Hz)固定シェルビング・フィルター、500〜18kHz、および2kHz(0.7Q)をカバーするスイープ可能なミッド・バンド×2が搭載されています。その他標準機能として、90Hz
ハイパスフィルター、ハードワイアEQバイパス、AUXセンド×2(プリ/ポスト・フェード・スイッチに一つずつ)、パン・POT、ミュート機能、PFLスイッチ、100mmフェーダーが挙げられます。EQ、ミュートおよびPFLスイッチには専用LEDがあり、各チャンネルにも専用ピークLEDが付属しています。
マスター・セクションの搭載機能:電光VUメーター、ファンタム電源スイッチ、マスターAUXセンド・レベル・POT(最大15dBのゲインとPFLスイッチ付き)、マスターAUXリターン・レベル・POT(バランス・POTおよびPFLスイッチ付き)、マスターPFLバランス・POT、マスター出力レベルPOT(ステレオ・バス/2トラック・リターンをスイッチ切替可能)、ヘッドフォン出力
すべての接続端子はヘッドフォンを除き、リアパネルに集約されています。XLRマイク入力およびフォン・ライン入力を各端子に搭載。またTRSインサートおよびフォン(ポスト・フェーダー)ダイレクトOUTの出力レベルは、+4/−10dBスイッチ切替ができます。AUXセンド×2、ステレオAUXリターン×2、ステレオ2トラック・リターンはすべてバランス仕様フォン端子です。またすべてレベル調節のための+4/−10切替スイッチが搭載されています。メイン・ステレオ出力はXLRですが、ステレオ・モニター出力はバランス仕様フォン端子です。各チャンネルおよびマスターOUTにはレベル調節用のPOTが搭載されています。M3を複数使用したい場合、2つの15ピンD-subコネクターがPFL、AUX/ステレオ・バスをリンクします。システムの一番奥に配置されたM3がマスター出力ソースとして機能します。 |
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オプションのDO-1デジタル出力カードも試してみました。このカードを使えば、AES/EBU(XLR)とS/PDIF(コアキシャル/オプティカル)フォーマットの両方で同時出力できるばかりでなく、内部/外部Syncスイッチおよびワードクロック入力機能も搭載されています。マスター・セクションのスイッチを使えばビット数(16/20/24-bit)、およびサンプリング・レート(44.1/48/88.2/96kHz)を調節できます。私はDO-1のAES/EBU出力を使い、ステレオ信号をYamaha03Dデジタルミキサーにルーティングしてみました。またMOTU2408MkIIインターフェースを経由し、DO-1のコアキシャルS/PDIF出力を使ってステレオトラックをDigital
Performerに録音しました。どちらの録音テストでも、DO-1のコンバーターはすばらしい機能を発揮しました。03Dの内蔵コンバーターよりはるかに優秀といえるでしょう。ただしDO-1のオプティカル出力はM3がもつ8チャンネルをすべてカバーすることは出来ません。DO-1は2チャンネル出力に限られています。
M3の周波数特性は20〜40kHzです。M3の魅力は非常にオープンでクリアな高音、まとまりがありながらスムーズな中域、そしてソリッドでタイトな低域にあります。ただしそれだけではありません。M3のサウンドには、真空管と超クリーンな信号パスがもたらすマジックが込められているのです。そのサウンドには製品のスペックを超える何かがあります。ゲインがユニティ設定で、EQがバイパス状態でも、M3に音声信号を流すだけでハイクオリティな音として再現されます。これこそM3がデジタル・レコーディング・システムの理想的なフロント・エンドである所以です。2ヶ月間M3とDigitalPerformerを併用していた私は、他のデジタル・レコーディング・システムでは満足できなくなってしまいました。またベース音、Synth/サンプリング加工したサウンド、エレキギターを録音し、これにソフトなディストーションをかけると、テープ・コンプレッション・エフェクトと似た効果を創る事が出来ました。

M3のEQの音質は非常に美しいものでした。シェルビング・フィルターのおかげで(音に極端に強調または弱めることなく)サウンドにパンチを効かせたり、丸みを持たせることが可能です。また中域はすべてのレンジにおいてそのスムーズさを失うことがありません。何度も言うようですが、M3のEQはサウンドに絶妙な加工を施すことができます。
総評として、M3は大変すばらしいミキサーです。決して安くはない商品ですが、8台の優秀な真空管マイクプリと、同じく8台のアナログEQが手に入るとあれば、大変リーズナブルな商品です。更にダイレクト・チャンネルOUTにより、M3を8系統の独立したアウトボードEQとして設定できます。またバランス真空管ミックス・バスを経由し、8系統のマイクプリ/EQをステレオとしてミックスすることも可能です(オプションのデジタル出力機能が必要になります)。
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