Future Music 誌 
 
英国レッチワースに本社を置くTL AUDIOは創立1990年、設立者はビンテージ・ギアの修理職人Tony Larkin氏です。シグナルプロセッサーの生産を始めたのはDavid Kempson氏が入社してからです。同氏は9年もの間NEVEで主任設計士を務めていました。現在もLarkin氏は修理担当として、Kempson氏は設計士として活躍しています。アナログ音響業界では、これ以上ない豊富な知識と経験をもつ強力なコンビといえるでしょう。両氏は設立当初から、真空管商品に対する市場のニーズを素早く捉えることに成功しました。そうして登場したのがEQ-1 Dual Valve Equalizerであり、これは市場で高い評価を得ました。EQ-1の次にはC-1 Dual Valve Compressorが続き、現在のClassicシリーズが出来上がりました。Classicシリーズの愛用者には枚挙に暇がありません。Led Zeppelin(Jimmy Pageのリミックス)、Abbey Road、Underworld、Morcheeba、Blur、Prodigy、映画「The Lord of the Rings」でもTL AUDIO製品が活用されています。より低価格な真空管製品に対する需要もあり、1998年にはIvoryシリーズが発売されました。現在7機種余りありますが、その新しいメンバーとなったのが今回レビューする真空管コンデンサーマイク、プリアンプのセット商品、5000です。  
商品内容

プリアンプはClassic Ivoryシリーズのスタイルを守った2Uラックマウント・シャーシです。シンプルなレイアウトながら、コントロール・ノブはしっかりしており、ソリッドで美しい仕上がりとなっています。ソフトケース付属のマイクはつや消し加工を施したシンプルなデザイン。ショックマウントも付属しており、スペアのショックマウントバンドが2個も付いています。ポップスクリーンも付属です。
マイクとプリアンプの接続は付属の7ピンXLRケーブル(10メートル)を使います。ピンが非常に細いので、折れるのではないかとはじめは心配しました。ですがピンの位置を正しく合わせないと端子をジャックに差し込めないようになっているので、ピンを傷める心配はありません。7つのピンによってマイクに電源、マイク信号、またマイクの極性パターンを修正する為のライン信号を送信します。
接続端子は本体リアパネルに集約されています。ラインレベルバランス仕様XLRもしくはアンバランス仕様端子を差し込むだけで接続は完了です。

詳細
付属のマイクは1インチの金メッキデュアル・ダイヤフラムを搭載した真空管コンデンサーマイクです。12AT7デュアル三極管を1本搭載しており、三極管はプリアンプユニットに装備された200V DC PSUによって稼動します。マイク本体には10dBパッドおよび低域ノイズを除去する為の120Hz 6dB/オクターブ・ロー・カット・フィルターを搭載しています。スペックも堂々たる数値で、周波数特性は20Hz〜20kHz、最大SPLは130dB、SN比は76dBです。ロー・ノイズ(18dBA)も見逃せません。マイクの指向性はプリアンプ上のコントロールノブによって9段階切替が可能です。左回りいっぱいに回すと無指向性、反対に右回りいっぱいに回すと双指向性に設定されます。ノブを中央に設定した場合、単一指向性で使用できます。
プリアンプ
プリアンプは5000の心臓部です。マイクに電源を供給したり、指向性を変えるだけでなく、マイク信号を十分なレベルまで増幅する役目を果たします。ゲインステージは入力と出力で2系統あります。入力ステージは他のIvoryシリーズと同様、+16dB〜+60dBまで自由に調整可能です。出力ステージも出力0から+15dBの範囲で調整できます。バックライトVUメーター上にはプリアンプの出力レベルが常に表示されます。0 VU=バランスXLR出力での+4dBuです。プリアンプの最大出力レベルは+26dBuです。
基本的な設定方法はとてもシンプルで、まず出力ステージを0にします。次に入力ゲインを徐々に上げ、VUメーターに「0 VU」と表示されるまで信号レベルを安定させます。次に出力ゲイン調整し、好みの出力レベルにしてください。
プリアンプにはほかに信号経路上のクリッピングを警告するLED、位相変換スイッチも装備されています。

リアパネル
マイク入力端子、電源ケーブルソケットはプリアンプ本体の背面にあります。プリアンプにはDO-2デジタル拡張ボード(別売り)用のスペースがありますが、装着しない方のためにスペースを覆うカバーも用意されています。メイン出力はバランス仕様ラインレベルXLRです。
メイン出力とパラに出せるアンバランス仕様出力(−2dBu)も装備。従ってデジタル録音時にダイレクト・モニタリングも可能です。
5000マイクは他のプリアンプと使用できるのか、もしくは5000マイクプリは他のマイクと使用できるのか、という疑問が出てきますが、前者の質問に対する答えはYES、後者はNOです。マイクレベル出力はプリアンプを経由して送信されますが、プリアンプにはBYPASSスイッチが装備されています。BYPASSモードに設定すれば5000内蔵プリアンプにマイク信号が送信されず、そのまま出力されます。5000マイク以外のマイクは5000プリアンプとの互換性がありません 。

使用してみて

マイクの音質は期待を裏切りませんでした。音源の細部まで正確に再現でき、繊細な音が出せます。周波数特性に関しては5〜15kHzの間でプレゼンスの隆起が若干あります。これはNeumann TLM103などと似た特性です。一般的にこの特性によってボーカルの音質がよくなりますが、万人の好みというわけではありません。5000マイクは全く音質の粗さがありませんでした。35Hz周辺の周波数特性はフラットで、低域も自然な伸びがあります。ボーカルだけでなく、アコースティックギターなどに幅広く使用できます。
5000のゲインレベルはかなり高く、極端なスタジオ環境も難なくクリアします。どんなにゲインレベルを高くしても、ノイズが顕著になることはありません。昨今のレコーディングで重要となるのは、必要以上に信号を増幅したり、加工したりすることなく、フル・スケールのデジタル信号が再生できるか否かです。またゲインレベルを上げることによって生じるノイズも大きな問題です。5000にデジタル出力カードを装着する場合、例外なくフル・スケール信号を再生することが出来ます。また5000があれば、録音中の素早い設定変更や、用途の自由が広がります。特筆すべきはマイクの指向性をプリアンプ上で変更できることでしょう。指向性は9段階もの設定を自由に選べます。またプリアンプ上で変更できるため、録音中にマイクの位置を変えたり、パフォーマーの気分をそぐことがありません。私は通常、ボーカリストを一人ずつ個別に録音するのではなく、一時に同じ部屋で録音してしまいます。このほうが良い雰囲気が作れますし、ボーカルの出来自体もよくなることが多いからです。

結論として

マイクは購入する前に実際に音を聴いてみることが不可欠です。また自分がもっているプリアンプで試してみることも大切です。併用するプリアンプによって、マイクの音質は幾通りにも変わってしまうからです。5000なら、マイク/プリアンプの相性について心配する必要がありません。内蔵パーツをマッチングしているので、音質の相性はピッタリです。あと問題があるとすれば、音質が自分の好みか否かだけでしょう。私は5000の音質をとても気に入りました。これからもボーカル、アコースティック楽器、パーカッションなどで使用するつもりです。
価格面に着目しても、マイク、マイクプリ、ケーブル、ショックマウントのセットでこの価格はお値打ちでしょう。性能的に同等の商品を個別に買った場合、とても5000の価格に合わせることは出来ません。一つ文句をつけるとすれば、デジタル出力が別売なことです。デジタル録音がこれだけ普及した今、たとえS/PDIF出力だけでもハードウェアに付属しているのが当然でしょう。
しかしながら、設定の簡単さ、音の良さ、デジタル拡張性、マルチ指向性を考慮すると、やはり5000は魅力的なパッケージと認めざるを得ません。

by Marc Cooper


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