RODEは百万ドルもの投資をしてHF-1カプセルを開発しました。この投資は会社の利益のみを追求したのではなく、音質にこだわる多くの録音技術者にも恩恵をもたらす事になりそうです。その一例としてハイグレードなダイヤフラムHF-1を搭載したRODEのヒットモデルであるNT2000の弟機種、NT2-Aが挙げられます。NT2000はノイズが少なく、高音質で手ごろな価格のマイクとして世界中のレコーディングスタジオや様々な施設で人気を博しています。HF-1は最高のビンテージマイクの真髄を再現する為に設計されています。中国で生産されたマイクが大量に出回っている中でRODEが全てのマイクの設計、製造を本国オーストラリアで行っている事実は注目すべき点です。
私は以前EM誌でNT2000をリビューしたことがあるので、NT2000同様のマジックがこの比較的低価格のマイクでも保てているのか非常に興味がありました。NT2-Aは指向性切り替え、ロールオフ設定、感度の切り替え可能です。この価格帯のマイクにしては珍しく無指向、単一指向、更には双指向に切り替える事ができます。しかしNT2000と異なり、連続指向性切り替え機能は搭載されていません。今回レビューしたNT2-Aと上位機種のNT2000はメーカーでスペックに関しては全く同じと認めているようにセッティングを同じように整えて録音すると同じ結果が得られます。
NT2-Aにはポーチバッグとシンプルなマイククリップが付属しています。NT2-A本体は少し重量があるのでNT2000やK2に付属しているようなショックマウントを使用する方が良いかもしれませんが、付属されていれば価格は大幅に上がっていたでしょう。
私はNT2-Aが価格帯程度の品質に妥協してしまっているような事は無いと確信しながら、レビューに臨みました。
最初は3人の世界的なシンガーを迎えてのバックグラウンド・ボーカル・セッションでした。そのうち2人は私とBurt
Bacharachのツアーバンドに参加し、George DukeやElvis Costello, Patrice Rushenとの共演も経験しています。それぞれがベテランですばらしい声を持ち、録音に少しでもおかしい所があれば指摘できる熟練したシンガーです。
私はNT2-Aを1本無指向性に設定してレコーディングルームの中心に配置しました。私はこのようなセッションの場合は周波数特性が自然になるだけでなく、シンガー達がマイクを囲むようにリラックスした姿勢で構える事ができ、立ち位置で相互の音量バランスを取る事もできる為、無指向性のマイクを好みます。もちろんこのような状況ではマイクがシンガー達の声以外の音を拾ってしまう事になりますが、適切な位置に吸音材やラグを配置する事でこの問題を抑えました。セッションが始まると、NT2-Aはミキサーに接続し、フェーダーを上げるだけで非常にすばらしい音質を得ることができました。またNEVEのプリアンプを通すと、まるでノイズの少ない
NEUMANN/U67のように滑らかで、暖かい音を得られました。
NT2-Aは無指向性に設定した場合、8kHz〜12 kHzに程よく強調されており、これによって録音された音は荒さをもちながら、不自然になる事なく空気間と広がりを持つようになります。
この時は3人のうち2人のパートのみを録音していたので、無指向性に設定されたNT2-Aが拾った部屋の雰囲気は後で処理を施す必要も無くバックグラウンドボーカルをミックスの中で少しだけ後ろに下げる効果をもたらしました。
数日後、今度はポップミュージック用にクローズ・マイキングで弦楽器のカルテットを録音する事になりました。このレビューの為にNT2-Aは2本用意されており、元々ペアのNT2000を持っていたので、2つのモデルの類似性を検証する為に双方をレコーディングに持参しました。
NT2-Aのペアはバイオリンに、NT2000はビオラ、チェロの録音に使用しました。全てのマイクは、各楽器をそれぞれ別のトラックにアサインし録音後にバランスの調整を行いたかった為、他のマイクへの漏れを最小限に抑えることができる単一指向性に設定しました。更に自然な雰囲気を加える為に演奏者の上方に無指向性に設定したNEUMANN/KM86を配置しました。
NT2-Aのハイパスフィルターで80Hzがロールオフするように設定し、低域を若干押さえる設定から初めて、次に40Hzとハイパスフィルターなしの場合を試してみました。
セッションが始まると、マイクのスイートスポットを見つける為に若干配置変更しただけでカルテットの演奏はすばらしい音質で録音する事ができました。
特に2つのバイオリンの音色は荒くなったり、耳についたりする事なく、あくまでも自然なままに豊かでクリアに録音する事ができました。仮に音が薄くなってしまっていたらロールオフ設定を変更するつもりでしたが、その必要もなくすばらしい音で録音できました。
最終的にNT2000のペアはクロース・マイキングによる近接効果を抑える為、単一指向性の位置から1/3程度無指向性側に設定する事にしました。EQの調整でも同様の効果が得られますが、NT2-Aや他のマイクに無いNT2000の連続指向性切り替え機能で処理する方法を選びました。
今この記事を書いている時点では紹介した2曲の編集は終わっていませんが、まだフレーズの繋がりを作る為に時間調整をしただけでEQ処理を加える必要は出てきていません。
NEUMANN/KM86で録音したトラックもApple/Logic ProのSpace Designerプラグインで処理した方がより自然な雰囲気が作れた為使用していません。
次はソロボーカルです。参加したのはいつも一緒に仕事をしている私のお気に入りの男性と女性のシンガーで今までに私のスタジオでNT2000を使用して何度もレコーディングしています。NT2-AをNT2000で録音した時と同じセッティングで使用すると、二人のシンガー共に過去にNT2000を使用して録音した物と同様の結果が得られました。
過去数年私は男性ボーカルにはNT2000、また女性ボーカルには同じHF-1カプセルを使用しているK2を好んで使用してきましたが、今回NT2-Aを使用してメーカーの提唱する「NT2000のお手ごろ価格版」というコメントに納得しました。
また、私はNT2-Aをギターアンプの録音にも試してみました。SM57とNT2-Aを同時に使用しギターアンプを録音してみました。緩やかなコンプとEQを加え、2本のマイクをミックスするとかなり激しいギターサウンドを得ることができました。NT2-Aはエレキギター等に極端なEQを施しても、自然な音を得ることができます。
RODE社はその品質と値段によってユーザーが思わず唸ってしまう、高級マイクNT2-Aを市場に送り出しました。NT2-Aは指向性連続切替コントロール、選択可能なハイパスフィルター、パッドをマイク本体に搭載した高音質でオールマイティなマイクです。
中国で生産されている他社製の低価格マイクと違い、RODEのマイクは非常に精密に設計されており、パフォーマンスも安定しています。そしてそのノウハウは当然のことながらNT2-Aにも大きく反映されています。この価格帯のマイクの中から無人島に持っていく製品を選択するならば、私は真っ先にこのマイクを選ぶでしょう・・・ |