LINE6
Electronic Musician 誌
by Rob Shrock / 2004年 5月

EVENT ELECTRONICSの新製品、Studio Precision 8 アクティブモニターは、6.5インチと8インチのユニットが付いたパワード、パッシブの計4機種からなるStudio Precision シリーズの1つです。EVENTはこれまでも常に良質のモニターを制作してきましたが、このStudio Precision 8 Active、ASASP8P8は市場に回っているどの価格帯のクローズ・フィールド・モニターにも劣らない大変優れた作品です。
Studio Precision 8のキャビネットを見ると、ハイ・グロス・ブラックフィニッシュと魅力的な金色のレタリングが目に止まります。見た目も豪華なスピーカーですが、サウンド・クオリティーはその印象を上回るものです。数分間の視聴後、これは本当に凄いスピーカーだと判りました。
このASP8はユーザーの部屋に合わせて補正できるContourコントロールを搭載、Hi/Lowフリークエンシー・トリムで、上は2.6kHz、下は100Hzまで3dBずつレスポンスの調整をする事が出来ます。また、システムにサブウーファーを組み込んだ場合は80Hzハイパス・フィルターを使用することも出来ます。私はまずインプット・トリムを最大限に上げ(-20dBまで設定可能)、フリークエンシー・トリムをフラットに、そしてフィルターを外してみました。すると、セッティングを変えることなく、このスピーカーが誇る機能を堪能することができました。ASP8のレスポンスは細かい設定をしなくても素晴らしいものでした。
何枚かの聞き慣れたCDで試聴してみたところ、充分に知り尽くしていると思っていた音源から新たなディテールを発見し驚きました。特にスタンダード、Steely Danの「Aja」やFleetwood Macの「Rumors」のように、過剰にコンプレッサーがかかっていないサウンドを聞いた際、ASP8 ウーハー部分その深み、ダイナミックス、奥行きを聞き分けることができ、興味深いものがありました。また、今まで気が付かなかった、いくつかの疑わしいパンチやオーバープロセスされた所なども聞き分けることが出来ました。JuanesやJosh Groban、Maroon 5、そしてLiz Phair のようなモダンな作品も各々のプロダクション・スタイルの中で素晴らしい音質でモニターすることが出来ます。(もちろん昨今のポップスの過度なコンプレッションも顕著に聞き取れます)
このモニターシリーズは心地良い程フラットで、均一な音質です。ロー・エンドはスムーズかつ伸びやかで、音が目立って波打つようなこともありません。ASP8の80Hzハイパス・フィルターは特にサブウーファーとの併用を想定して設計されていますが、もしStudio Precisionモニターシリーズでサラウンド・システムを組もうとするならば、同社の20/20 S250サブウーハーと完全にマッチングするデザインです。
しかし、通常のステレオ音源用にはあえてサブウーファーを組み込む必要はないかもしれません。このASP8のローエンド・レスポンスは素晴らしいものなので、私はためらうことなくこのモニターのみで全てのミックスを行ってしまうでしょう。ASP8 ツイーター部分 ミッドレンジとハイエンドも同様に、素晴らしいものです。耳障りなことも控えめすぎることもなく、実にニュートラルです。他のスピーカーで見られるようなクロス・オーバー・ポイントでの異常も見られませんでした。私が推察するに、これはMackieのHR824にも用いられている、くぼんだようなキャビネットを持つツィーター(EVENTではradiatorと呼んでいます)の効果によるものです。結果として、滑らかで、スイート・スポットの広い高音を生み出しており、他のモニターのように音が暴れたり、おとなしすぎる事なく、音源に忠実なサウンドになっています。またトランジエント・レスポンス(瞬間的な反応)がとても良いため、ASP8は前面から背面まで充分に奥行きがある、安定したステレオ・イメージを保っています。
アクティブ・モデルはロー・フリークエンシー・ドライバー200W、ツィーター80Wのアンプで充分にパワーがあります。私はトランジエント・レスポンスの早いスピーカーと遅いスピーカーには常に一長一短があると考えています。早いレスポンスのものが良いというイメージがありますが、不自然に堅くタイトすぎる音質になる傾向があり、遅いレスポンスのものは温かみのある音にはなりますが、音がにごる恐れがあります。ASP8はこのバランスが良く取れた、極めてニュートラルな音質をしています。

ミックス現場で

このASP8がレビューのために到着した当時、私は手持ちのモニター環境で良いミックスを生み出すことができずに途方にくれており、約$3000かけて大きなクローズ・フィールドのセットを新調しようとしていました。しかしASP8で初めてのミックスを完成させた時、私はすぐにコンプレッションやEQ、アンビエンス・レベルなどの問題点、今までのモニターでは不明だった修正点を発見することが出来ました。そしてASP8から聞こえる音を完全に信頼するようになったのです。いつのまにか、今まで私の数少ないクローズ・フィールド・モニターの選択肢の一つだったNHT A-20スピーカーを使用しなくなりました。ASP8(と小さなAppleのスピーカー)だけを頼りに、物置の中から他のスピーカーを取り出すことなく、ミックスを行ってみましたが、今までやってきた仕事と同様に満足のいく結果が得られ、他のモニターは全く必要ありませんでした。ミキシングは捉えどころのない仕事ですが、自分が聞いている音を自分で信用することが出来ると、はかどるものです。ASP8を使い始めてから、今までの満足行く結果を得るための苦労が間単にすむようになりました。

ホームラン

ASP8のデザインには変えるような部分はどこにもありません。"パーフェクトな"モニターがこの世に存在するとは思いませんが、このモニターの発表でEVENTはホームラン、いやグランド・スラムを打ち放ったと言えるでしょう。このシリーズの価値を格別に凄いと思うのは、有名スタジオの大黒柱として君臨する倍以上の価格の製品よりもこのモニターが良いと思うからです。
ある程度のレベルを超えたハイ・エンドな機能を持つモデルになると、その選択は完全に個人の主観によるものになってきますが、良い意味で世界中のスタジオで使用されている特定のモニターも存在します。経験豊富なプロのエンジニアはそれらのモニターに馴染み深く、信用し、継続的に使用するのです。Studio Precision 8は間違いなく、プロの誰もが認める数少ない定番リストにのるべきスピーカーであるといえます。そして、価格に見合うだけの価値と決定的なモニタリング・クオリティーを提供するサラウンド・システムを構築したい、となればASP8と20/20 S250のコンビネーションに勝る組み合わせは考えられません。


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